フェラーリ「ディーノ」というクルマには数多くのドラマが見られます。例えば人気マンガ「サーキットの狼」では主人公のライバル沖田の愛車として登場するも、沖田が病に倒れ、後に主人公の吹雪裕也の愛車となって復活しています。
また、そのものズバリのネーミングですが、「ディーノ」というマンガでは、ディーノという名の主人公が、父の残した「ディーノ」に乗って父の敵を討つという復讐劇を飾る愛車として活躍しています。
まぁ、これらはホンの一例に過ぎませんが、実際にはそんなドラマティックなストーリーが実に良く似合うクルマなのです。それではフェラーリの至宝「ディーノ」について語ってみましょう。
フェラーリではない「ディーノ」
「ディーノ」はフェラーリが製造した初のミッドシップ2シータースポーツカーです。また、フェラーリ唯一のV型6気筒エンジン搭載市販車という、エポックメイキングな面を多く持ちあわせた特別なクルマになります。
しかし、まだまだそんなものではありません。この「ディーノ」はフェラーリ製でありながらも、フェラーリを冠せず、フェラーリを代表するロゴエンブレム”跳ね馬”を冠していないのです。いったい、これは何故でしょう?
フェラーリの創業者として知られるエンツォ・フェラーリの長男、アルフレードはディーノという愛称で呼ばれていました。彼はフェラーリ社に入社、V型6気筒エンジンを開発しますが、筋ジストロフィーを発症し、24歳という若さで亡くなります。アルフレードを跡取りと考えていたエンツォ・フェラーリは、彼の死をひどく悼みました。
アルフレードの死後、彼の愛称ディーノと名付けられたブランドが誕生します。そのクルマには「フェラーリ」を冠することも「跳ね馬」を冠することもありませんでした。
これはポルシェ「911」などに対抗する安価なスポーツカーとして、「ディーノ」というブランドを作りたいというエンツォ・フェラーリの戦略であると同時に、息子が開発に関わっていたV6エンジンを搭載したスポーツカーを世に送り出すという、息子への思いと愛が詰まったクルマだからこそ、そうなったと言われています。
他にはV12エンジンを搭載していないクルマなどに、「フェラーリ」の名は与えられないという噂も流れたようですが、やはりこれは単なる噂だったようです。実際、エンツォ・フェラーリが最も愛した市販車こそが「ディーノ」であったと言われています。
65度V型6気筒DOHCエンジン搭載
アルフレードの死後、彼が生前に開発に関わっていたF2レーシングカー用のV6エンジンは「ディーノV6」として完成し、排気量を拡大してF1にも搭載されるようになり、好成績を収めます。そして「ディーノ」にもそのエンジンが搭載されているのです。
これは彼が後にエンジンの小型化が重要になるという発送の元にV12エンジンが主流の中、開発に成功した成果と言えるでしょう。
ディーノ
「ディーノ」は1965年のパリサロンでプロトタイプが発表されました。その際はV型8気筒エンジンを搭載しており、透明で幅が広いノーズでしたが、翌年のトリノ自動車ショーで発表された際には後の生産車と近いイメージになっています。
実際に生産開始となったのは1967年からになります。
「ディーノ206 GT」
最初に作られた「ディーノ」は「206 GT」と呼ばれるモデルとなります。この初期の「206 GT」は、アルミ合金製でハンドメイドで製作されました。僅か900kgという軽い車重に178馬力のV6エンジンを搭載し、トップスピードは146mph(233km)を記録しています。
「206 GT」は156台が製造されましたが、アルミ合金製で錆から守られたこともあり、その多くが現代にも残っているそうです。
「ディーノ246 GT」
1969年から生産された「ディーノ246 GT/S」は鉄ブロックと排気量2.4リットルの容量を持つV6エンジンが搭載されるようになりました。アルミ合金ではなく、ボディは全て鋼鉄となり、GTが1080キロ、GTSが1100キロとなりました。
しかし、パワーアップされたエンジンは195馬力を発揮し、トップスピードはほとんど「206 GT」と同じ146mph(233km)となっています。この「ディーノ246 GT/S」は両車種併せて3,569台が生産されています。
1969年製「ディーノ246 GT」がオークションに出展
今回、掲載している「ディーノ」はシャシーナンバー00522の「246 GT」になります。Lシリーズと呼ばれるもので、「246 GT」モデルの初期タイプとなります。このLシリーズはノックオフホイール、インテリアトリム、および木製のステアリングホイールを含む、「206 GT」と同様の機能を保持していることもあり、注目されるタイプです。
2013年からレストアが施され、3年間に渡って修復された車両になります。エンジンはできるだけ多くのOEM部品とオリジナルパーツを使用して完全にレストアされましたが、機械代だけで5万ドル以上のコストがかかり、ボディ関連の修復で15万ドルが使われているそうです。
現在、サザビーズに出展されていますが、果たして幾らになるのでしょう。ドラマティックで完璧な「ディーノ」には、かなりの高額落札が予想されます。どちらにしても庶民には高嶺の花過ぎますよね。
来年、「ディーノ」の新型モデルが発表されるというだけに、逆にオリジナルの値段にも反映されそうな気がします。