バイクの上ではいつだって音楽で溢れている「First Song Layla by Derek&The Dominos」

気が付くとトラックの群れの中に紛れていた。10キロ程は回りに車がいない状況で、平日の高速を走っていた。

電光掲示板には「横風、雪注意」

1月なのだから雪が降ってもおかしくはないが、それでも滅多に降ることのない西日本から中京にかけて。何を呪おうとどうにもならずに、融雪剤としてまかれた塩化ナトリウムの不自然な白さがただただ怖かった。

それでも周りに車がいなければ、雪で滑ってコケたとしてもただでは済まないだろうが滑って行けばどうにかなりそうな気がする。しかし大小さまざまなトラックの群れと、ヒツジを追う犬のようにその中に混じる普通車の中でコケれば即に命を失うだろう。

追い越し車線の先頭を走る大型トラックが、走行車線のミキサー車をじわじわと追い抜こうとしている。その後ろの赤い軽自動車が「早くしろ」と言いたげに大型トラックの後ろで吠えている。

更にその後ろで俺は、横からの強烈な風に飛ばされないように必死でハーレーのハンドルを抑えこみ、下から吹き上げる雪の冷たさと塩化カルシウムの塩味をかみ締め、90キロ程で追い抜こうとしている大型トラックのスピードが丁度良くも思えた。

激しい痛みと恐怖感

指先は痛みを通り越し激痛に近い。アメリカ軍がパイロット用に開発したというジャケットには雪が張り付き、全身の感覚がなくなるほどに冷えている。塩化カルシウムの白と、塩化カルシウムが飛ばされてしまったアスファルトの黒。それにセンターラインに薄らと積もった雪、逃げ場のない恐怖感。どこを選んで走ろうと、今にもタイヤが滑り出しそうな気がする。

大型トラックがミキサー車をパスすると赤い軽自動車に道を開ける。加速する赤い番犬のような軽自動車に付いて行こうとアクセルをじわじわ開ける。後ろのハイブリット車は音もなくLEDのヘッドライトを冷たく光らせて迫ってくる。スパートに付いていけないマラソンランナーの気持ちが折れるように俺の気持ちも折れていた。アクセルを開ける度胸もなくかじかんだ手は恐怖もプラスされて動かない。

じりじりと大型トラックを追い越して左車線に移ろうにも車線変更すら滑りそうで怖い。そっと、少しずつ左に寄って、センターラインの薄らとした雪をかき分ける。苦行だ。東京まで250Km。普通なら2時間半の道のりだが、それは地球の果てのように思える。楽しみは23Km先のサービスエリア。何をしているんだと自問自答して左手をエンジンに当ててみるが温もりなど感じることもく、ただ指先の痛みを再確認する。

バイクの上では歌うに限る

横風に煽られながら何か楽しいことを考えよう……そうだ歌おう。何か楽しくなるような歌を。真っ先に昨夜の寝る直前のテントの中を思い出す。寒いキャンプ場ではあったが良い気持ちに酔って包まった寝袋の温もりは最高だった。

bluetoothの小型スピーカーは旅には欠かさないアイテムだ。スマホに入っている音源から選んだのはデレク&ドミノスの2枚組アルバムのDisk2。エリック・クラプトンが中心となって1970年に結成されたバンドだ。2枚組のアルバムはブルース色の濃いかなりのカッコいい演奏の網羅で、Disk2はtell tha Truthという曲から始まる。心地の良い酔いと暖かな寝袋で直ぐに睡魔に襲われ、ジミヘンの名曲をコピーしたLittle Wingが聞こえていたのを何となく覚えているがその先は朝まで目を覚まさずにぐっすりと眠った。

寝ている俺の横でスピーカーからはあのギター小僧の誰もがチャレンジした超有名フレーズから始まるLaylaが流れていたはずだ。ゲスト参加しているデュアン・オールマンのスライドギターとクラプトンのストラトの音が絡み合う名演奏の名曲は6分程の長さだが、曲は3分程で前半の歌の部分が終わりその後にピアノの演奏にデュアンの奇跡のスライドギターで構成されるインストの後半部が重なる。

昨夜は聞けなかったがでたらめの英語でLaylaを叫ぶように歌いながらサービスエリアを目指して、滑りそうで怖くて寒い高速を走る。抜いた大型トラックがすぐ後ろに迫っていたが、もうアクセルを開ける勇気も気力もなく、相変わらず気持ちが途切れたマラソンランナーのような走りだが、それでもLaylaと叫んでいる。

画像 – Flickr:Groundhopping Merseburg, Youtube:Derek And The Dominos – Layla
オオモリシゲユキ

オオモリシゲユキ

バイク・アウトドアが大好きな放浪ライターと書くと格好良いがただのオヤジライター。加齢臭気にしつつ今日もバイクで走ります。得意分野は外見に似合わず文章