アメリカに現存する最後のカウボーイ【for Rideコラム】

今から25年以上前になるが「カウボーイ」の取材をしたことがある。あるアメリカ人のジャーナリストが「本当のカウボーイはもう全米で200人ぐらいしかいない」と言っていたのが気になり何も知らずにテキサスへ向かった。カウボーイと言えば「テキサス」という考えしかなかった。実はカウボーイと呼ばれる人たちは全米中にいて、特にアメリカ中西部は牧場が多いためカウボーイの数も多くいるだけだったことは当然知る由もなかった。

カウボーイの実情

レンタカーでテキサスの田舎を2日間走り回り、なんとか牧場主と知り合うことができカウボーイを紹介してもらった。3人の男たち。皆どこの牧場にも属さないフリーでリーダー格は40歳代半ばの無精ひげを生やした男だった。

これから5日間かけて東京23区と変わらない広さの牧草地に放たれている500頭の牛をまとめて連れて帰るのが彼らの仕事である。ただ単に連れて帰るだけではなく、この広大な牧草地を毎日移動しながら牛たちにエサとなる草を食べさせていかなければならない。だから5日間かかるのである。もちろん牧草地内にはほとんど道路なんかないので彼らの足は馬である。アメリカ独自の血統を受け継ぐアメリカンクォーターホースは彼らにとって欠かせない相棒である。牛は単独で行動しないのでグループごとに見つけては一つにまとめて毎日ホコリだらけになりながら移動していく。幸い移動は車が何とか通れる場所だったので同行させてもらった。

牧草地内とはいえ丘やちょっとした谷もあり小川まで流れている。数百年間変わっていないだろうこの場所をやはり200年以上前と同じように牛を引き連れていくさまは、西部開拓時代を想像させるには十分すぎた。

変わらぬ生活の営み

陽が暮れるまえに小川が流れる谷間に今夜のキャンプ地を決めたき火を起こす。彼らは愛馬に水と食事を与え異常がないか足回りを中心に念入りに点検する。

牛たちはのんびりまだ草を食んでいる。不思議なことに皆まとまっていて一頭たりとも逃げたりしない。きっと安心なんだろう。テントを張るのを待っていたら何と野宿。初めて彼らに笑われた。こっちは車の中で寝るから構わないけど彼らにとっては全く普通らしい。たき火の近くに愛馬にくくり付けて持ってきた毛皮の毛布を2枚用意して寝床に。愛用のライフル銃もすぐ横に。

たき火のうえには使い古したナベがかかり、中には豆がグツグツと煮込まれている。食事はこのチリビーンズを煮込んだものとちょっと硬めのパン。あとはオリジナルのビーフジャーキー。ウイスキーでもグッと飲むのかと思ったら全く飲まない。食後はすすで真っ黒になったパーコレーターからマグカップにコーヒーを入れタバコをおいしそうに吸いながら3人で他愛もない話をしている。「面倒くさいからインスタントだよ」と言いながら渡してくれたコーヒーはブラックでもすごくおいしく感じた。

皆おしゃべりではないけどリーダー格のカウボーイはとりわけ無口な人だった。ラジオさえなくたき火のパチパチという音だけが周りを包む中、テキサスなまりの独特の英語で少しずつ語ってくれた。

カウボーイという仕事

何年カウボーイをやってるか覚えていない、仕事は絶対にやりとげる、一頭たりとも牛を残したことはない、結婚はしていない、都会は自分には合わない、今回の牧場主からの契約金は一週間で無くなってしまうだろう、大事なもの?ライフル銃とタバコ、「チャップス」なんて言わない「シャップス」て言うんだ。

最後になぜカウボーイになったのか聞いてみた。少しの沈黙の後たき火を見ながら彼は言った。「タイムレコーダーを押すのが嫌だっただけさ」。

翌朝、日の出とともに牛を連れてキャンプ地を後にする彼らを見送りながら、文頭で書いたアメリカ人のジャーナリストが言っていたことを思い出していた。

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松並学

松並学

広く、浅く、何にでも興味を持ってしまう老人一歩手前の九州人。カップルのことをアベックと言いそうになることを一番注意している今日この頃。