木曜日のコーヒー【for Rideコラム】

人はひょんなことで知り合うことがある。そして良き友人へと発展していくこともある。付き合いの長さが関係の深さを表すものではない。あなたにも経験があるかも知れない。定期的に見かけるちょっと気になる人。でも一度も話したことがない。

南カリフォルニアのとあるドーナッツ店

【for Rideコラム】木曜日のコーヒー

南カリフォルニアはチャッツワースにある、どこにでもあるごくありふれた小さな店。この店には、毎週木曜日の朝8時30分になるとどこからともなく旧車に乗った人生のベテランたちが集まってくる。老人とはとても失礼で言いにくいが、皆60歳代後半以上の人たち。クルマも千差万別で、ヨレヨレの1920年代のピックアップトラックから、おろしたての新車並にキレイな50年代のクーペまで。

ただし共通点が一つ。すべてヒストリックカーと呼ばれる旧車ばかり。もっとも新しいクルマでも1960年代。すべての車がボルトの一本まで忠実にレストアされている。

そして注目すべきはナンバープレート。全員当時のナンバープレートを付けている。もちろん、正規の登録である。カリフォルニア州は今まで5回以上ナンバープレートのデザインが変更されてきたが、ここではその全部をみることができる。

また、ほとんどの車がオーナー自らレストアしたもので愛車精神は人一倍強い。

【for Rideコラム】木曜日のコーヒー

どうやら10数年前、古い車をこよなく愛する一人の老人がレストア中の愛車に乗ってこの店に来てコーヒーを飲んでいると、同じような年輩の人とたまたま一緒になり、クルマ談議に花が咲いたらしい。木曜日の朝のわずか一時間ほどだったが、彼らにとっては充実した時間だったのだろう。

なぜ木曜日だったのかは定かでないが、翌週もその翌週も、木曜日の朝のわずかな時間、ここで大好きなコーヒーをたしなんでいた。そのうち旧車とコーヒーが好きな年輩の人たちがどこからともなく集まってくるようになったらしい。もちろん10年以上過ぎた今でも。

みんなでドライブするわけでもない。もちろん代表者がいるわけでもない。他の客に迷惑がかかるようなこともない。ただ店に集まってきてはコーヒーをテイクアウトして店の前でそれを飲みながら世間話をするだけ。そして9時30分を過ぎるころ、一台また一台と駐車場をあとにする。ルールを作るほどのものでもないし必要もない。人生のベテランたちにはそんなものは無用。ただし、絆はとても強いのである。

偶然出会ったこと、思い切って話を切り出したこと、これが多くの人が楽しむきっかけになった。きっと彼らにとって、愛車とコーヒーと木曜日の朝8時30分は、「もっとも大切なもの」の一つなのだろう。

松並学

松並学

広く、浅く、何にでも興味を持ってしまう老人一歩手前の九州人。カップルのことをアベックと言いそうになることを一番注意している今日この頃。