サハラ砂漠をご存知でしょうか?アフリカ大陸北西部にある世界最大の砂漠であり、南北の長さは約1,700km、面積はアメリカの国土とほぼ同じ約1,000万km2を誇ります。その強烈さはアフリカを文化的に分断してしまうほどであり、人類は未だサハラ砂漠を東西に横断したことがないのです。
今回は、そんなサハラ砂漠をシトロエン「2CV」で横断しようとした、フランス人の大馬鹿野郎のお話です。
シトロエン「2CV」でサハラ砂漠縦断を目論む!
それは今から25年前、1993年のこと。フランス人のEmile Relay(エミール・ルレイ; 以下、エミール)さんは、北アフリカはモロッコ南西部の小都市”タンタン”からモーリタニアに向けて、サハラ砂漠縦断を計画していました。そもそも出発地点の”タンタン”自体がサハラ砂漠。そのうえエミールさんを馬鹿野郎と呼びたくなるのは……
乗って行くクルマがシトロエン「2CV」なワケですよ。1993年と言えば、日本で言えば、まだバブルの残り香が漂う時代。パジェロやらランクルなんかが流行していたわけです。
いくらフランス人だからと言って、既に中古車というよりは旧車となっていた「2CV」で行くって……どんだけ馬鹿野郎なのでしょうか……
サハラ砂漠の真ん中で「2CV」が故障する……
さて、素敵な「2CV」でサハラに挑んだエミールさんだが、起伏の激しい未舗装路を走行中に岩に車両をヒットさせてしまいます。これによりフロントホイールのアクスルとリーディングアームを破損……クルマは動けなくなってしまったのでした。その場所は、最寄りの街まで20kmほどの距離だったそうです。その時のお写真が……
コチラ!なかなかに攻撃的なおパンツを履かれていらっしゃいますね……このエミールさんが、どれだけ大馬鹿野郎なのかは、ここまでで説明した通りなのですが、実は彼、電気技師という本業を持った人。そして考えました……「クルマは死んだけど、エンジンと車輪が3つある。これでバイク作れば良いんじゃね?」
ですよね、出来ますよね……って普通無理でしょう!それなりにDIY好きの筆者ですが、あらゆる工具が完備された快適なガレージで1ヵ月ほど貰えたうえお金を貰えるなら挑戦しますが、エミールさんが居るのはサハラ砂漠の真ん中。水と食料が10日分あったのは幸いですが、それにしても……ですよね?しかも持っていたのは一般的な工具のみでした。ところが……
「2CV」を解体して12日間でバイクを制作!
エミール凄っ! なんてこった、3日間での完成を目指していたそうですが、実際には12日を必要としたそうです。
それにしても驚かされるのは、完成したバイクの仕上がり。まずはフレームからボディを外したうえで、そちらはシェルターとして活用。そして一度エンジンをフレームから降ろしたうえで、ショートホイールベース化を施しています。そして破損しなかった側のフロント足回りを搭載したところで、バイクが出来るわけがありません。「2CV」はFF車ですから……
そう、このバイクのフロント足回りは、「2CV」のリア足回りを移植して作られているのです!そうすることで、後はエンジンなどを搭載すれば、なんとなくバイクが完成しそうな気がしてきますが、操舵系を生かすのは、大変だったことでしょう。そして……残念ながら正確な構造は不明なのですが、後輪を2輪から1輪にしたため、駆動するのに何がしかのパーツを介する構造にしたのでしょう。前進するためにリバースギアのみで進むことになったそうです。
実際の作業は、エアツールや電動工具、溶接機などはありませんから、困難を極めたそうです。バイク制作に当たっては、全てのユニットはボルト&ナットの締結で固定しています。が、それに必要な穴がなく、ドリルもないワケです。そこで穴あけをするのですが、何度も金属を曲げてから叩くことで穴を開けたとか……常人では考えられないことをやってのけています。
それでいて快適性を忘れず、ちゃっかりシートを装備している点にもご注目ください。クルマのリアバンパーを利用して制作したのだそうです。
ここまで無鉄砲なおっさんでありながら、ライセンスプレートを搭載しているのは、どうしたことでしょうか……
そして無事に生還!
いかがでしたでしょうか?フランス人の大馬鹿野郎エミールさんのお話でした。
が、これ程の作業をやってのける気力・胆力・技術力……それに遊び心……大馬鹿野郎と呼び続けてしまいましたが、心の底から尊敬してしまった筆者です。皆さんも「2CV」でサハラ砂漠縦断の旅に出掛けてみませんか?筆者は……無理です!