日頃すれ違うバイカーを見ていると、そのファッションが両極端なことに気づかされます。それは「あまりにも普段着すぎる」か「ライダースギアで固めすぎている」ということ。前者は安全性に不安がでてきますし、後者となると見た目の選択肢がどうしても狭まるのが悩ましいところです。
「日常に溶け込むファッションで、バイクをカッコよく乗りこなす」。そんなバイカーの理想的スタイルを提案する試みが始まっているって知ってました?
「ファッション×モーターサイクル」をコンセプトにしたスタイルを提案
その一旦を垣間見れたのが、東京都世田谷区のライダースカフェ「UNITEDcafe」で開催されていた「3BRANDs joint -New Jacket Exhibition-」というレザージャケットの合同展示会。それぞれバックグラウンドの異なる個性的な新進気鋭ブランドが集まり、意欲的な作品を発表していたんです。そのいずれもが、ライダースギアではまず見ないようなパターンや、色とりどりのジャケットばかり。
早速、その魅力的なジャケットの数々をブランドごとにご紹介していきましょう。
真冬のライディングに耐えうるSilverBack.DesignのN-3B

SilverBack.Design 名倉哲明さん
レーシングパーツの製造開発が原点という名倉哲明さんが主宰する「SilverBack.Design」は「ライディングとファッションの両立」を掲げるバイクウェアブランド。
そのアイテムは流行のスタイルを取り入れながらも、必ず肩や肘、背面などにプロテクターを挿入できるように設計されてします。きちんとライディングウェアとしての機能性が確保した上でのデザイン性というのが、同ブランドの特長です。

SilverBack.Design「Sialkot」 予価:7万3,700円(税込) 発売予定:2021年1月
最新作となる「Sialkot」は-10~-30℃といった極寒で着用することを前提としたフライトジャケット「N-3B」タイプです。ミリタリーファッション好きには御用達のアイテムで、テキスタイルでも十分な防寒性を誇りますが、こちらはさらに「ディープオイルラム」という特殊な革を使用しています。
これはその名の通り、毛穴が小さく保湿性に優れる子羊の革に深く深くオイルを浸透させたもの。そう聞くとベタつきそうと思うかもしれませんが、まったくそんなことはありません。表皮の深い部分でオイルを保持しているので、むしろ通常のラム革よりもしっとりとした手になじむ肌触りなんです。
実際に羽織ってみると着心地はいいし、とにかくポカポカ。8℃程度の寒空の中でもまったく寒さを感じないくらいでした。裏地の一面をファー素材にしたハンドポケット用の上部ポケットもついているので、手袋いらずです。これは街歩きにイイ!
「バイクを降りた後も普段着として着れる形というのが、ずっとコンセプトとしてはあります」(名倉さん)
また、バイカーにはうれしい工夫も。通常のN-3Bなら内袖がついていますが、Sialkotではそれをあえて除去。裏地無しのファスナー形状にしています。防寒用に使う、ロングタイプのウインターグローブを使用してもキレイに収まるようにしてあるんです。
さらに、胸部下のフィット感を上げる形状とすることで、肩で重量を支えるというロングコートの大前提を覆しています。そのため、ライディングポジションを取った時に上半身全体に服の重さが逃げるようになっているので、ライディング時も窮屈さを感じさせません。さすがバイク屋さんの考えたアパレル、見た目だけじゃなくバイカーのことがよくわかっていらっしゃる!
色彩豊かなMist†Mysticのラムレザーダブルライダース

Mist†Mystic チェリーさん
一方、アパレルブランドならではのアプトローチを見せたブランドもありました。それが、デザイナーのチェリーさんが主宰する「Mist†Mystic」で、普段は耽美な世界に欠かせないファッションコルセットをメインとしています。

Mist†Mystic「ショートダブルライダース」予価:6万6,000円(税込)発売予定:2021年4月頃
そんな彼女が初めてバイク用として手掛けたのが、こちらのラムレザーを使ったダブルライダース。ピンクにイエロー、ターコイズといった色鮮やかな色合いがなんとも目を引きます。これはオシャレの幅が広がりそう!
「街で着れることがベース」とチェリーさんが自ら語るだけあって、ボディコンシャスな美しいラインも特長的です。その際たるポイントが、丈の長さ。一般的なライダースなら、風の巻き込みを防げるように腰下まで長さを確保しますが、こちらはあえて腰上で大胆にカットしています。
「スカートのはじめのところがつぶれないので、足長効果もあるんです」(チェリーさん)
もっとも、その分バイク用としては心許ない気もしてきますが、それもそのはず。実はこれ、女性がアクティブにバイクを乗りこなす際のジャケットというわけではないんです。
そのコンセプトは「バイクに乗っている彼氏が彼女に着せたい服」。まさに、男性のハードなバイクファッションに華を添えるイメージになっています。そんなわけで、こちらのジャケットは女性用のみのサイズ展開です。着たいと思った男性諸氏は残念!
「オシャレなカフェにいく感覚で着て欲しい。トコトコ走るカブとかベスパに合わせてもカワイイですよ」(チェリーさん)
まさにネオレトロ。Galloping Hog’sの進化型アビエイタージャケット

Galloping Hog’s Mitsuruさん
すでにバイク業界では、トレンドの一つとなって久しいネオレトロ。伝統をリスペクトしつつ近代的なアレンジを加えるという考え方をファッションに持ってきたのが、デザイナーのMitsuruさんが主宰する「Galloping Hog’s」です。

Galloping Hog’s「Johnny-NubuckLeather」 実売価格:5万5,000円(税込)
同ブランド初のプロダクトとなる「Johnny NubuckLeather 」はバイクウェアがまだ確立される以前に使用されていた、アビエイタージャケットタイプ。そのこだわりは革の選定からして貫かれています。
そこに使用されているのは、タフで高品質なヌバックレザー。ハードに使い倒される登山用ブーツの素材となることも多く、その耐久性は折り紙つきです。
「やっぱり着てバイクで遊んでもらってこそのジャケット。使い倒していくうちにどんどん艶がでてきますし、それにつれて愛着もどんどん湧いてきます」(Mitsuruさん)
また、ライダースとしての機能性も充実しています。風の巻き込みを防げるよう、ソデと襟元にスナップボタンを配置しているだけでなく、ジャケット内を含めると4ヶ所ものポケットを確保して収納性アップ。さらに、グローブをはめたままでも開閉しやすいよう、ジップはボールチェーンにするなど、細部まで作り込まれています。
さらに、見えないところにまでオシャレポイントが。着たり脱ぐ際にチラ見せできる、エンジ色ベースの鮮やかな裏地はさながらモッズスーツのようです。ただのクラシックに留まらない、アレンジとこだわりがたまらない一着といえます。
「ブランドのコンセプトとしてはビンテージスタイル。でも、ただの復刻に止まるのではなく独自のアレンジを常に模索していきたいと考えています」(Mitsuruさん)
アプローチは異なるものの、ファッションとバイクの融合をはかった意欲的な作品の数々。SilverBack.Designの名倉さんの言を借りれば、”コスプレにすらなっていない”異質さが目立つバイカーの現状を変えてくれそうな予感がしますね。
Information
開催場所となったライダースカフェ「UNITEDcafe」は、東急電鉄「駒沢大学駅」から徒歩10分。ギャラリースペースが併設されており、DJや展示会など、さまざまなイベントが定期的に開催されています。
住所:〒154-0003 東京都世田谷区野沢4丁目4−8