銀色の円盤に、銀色の全身スーツ……。こうした宇宙人や宇宙船のイメージは1950年代のSF映画にまでさかのぼります。見たこともない場所や未来へ向けたイマジネーションを発揮できた時代だったからこそ、今でも私達の感性に訴えかけてくるのかもしれません。
そんな古き良き時代のSF映画から飛び出してきたようなバイクが南米のアルゼンチンから登場しました。それがCastelli AFFによる「Abandonen toda Esperanza(すべての希望を捨てよ)」。なんとも不吉な名前ですが、後述する乗り心地を指しているのかもしれません。
宇宙船のようなイメージを作り上げている、全体を覆う外装はアルミニウムを加工したもの。当初、ベースとなるバイクを用意して改造する計画だったものの、イメージどおりにいかず、エンジンとトランスミッションを残してほぼすべてを作り直すことになったといいます。一からスケッチを起こし、図面を作り上げ、さらに3Dレンダリングを行い、作品をゼロから構築。電動バイクならまだしも、エンジン車でここまで自由なスタイリングを実現したことは驚異的です。
見れば見るほど、不思議なバイクです。エンジンはおろか、サスペンションすら見当たりません。ですが、ちゃんと砲弾のようなアルミボディにはバイクとしての機構が隠されています。内部に折り畳まれたシート構造のサブフレームが形成されており、エンジン、電子機器、特注の燃料タンクが収納されています。
フロントはビモータなどで見られるハブセンターステアリングを独自に作り上げ、これまたアルミの外装で覆うことで機構を見えなくしています。横からパッと見ただけではまったく可動する気がしません。
バイク上部にある、どうみても飛行機にしかみえない部分はなんとハンドルです。とてもアクセルをひねるようには見えませんが、それもそのはず。右翼の下にある小さなレバーを親指で操作してスロットルを制御します。これは一部の4輪バギーなどで見られる構造です。
あらゆる機構を隠すボディワークは全体に貫かれています。しかも、エンジンに空気を送るダクトに、リアアームの右側にある排気口など、デザインを崩さずちゃんと機能性が考慮されているのがさすがの一言です。
キルスイッチとスタートボタンは左側にある小さな丸いハッチの中に配置。また、燃料コックにアクセスできる小さな切り欠きもあり、実際のフィラーキャップも後輪の近くに隠れています。
ちなみにベースとなったのはアルゼンチンで日常の足として活躍しているZanella ZB 125というスクーター。これはホンダが南米で発売したカブの一種、C100Bizのコピーバイクです。当然ですが、まったく面影がありませんね。
独自のコンセプトと職人技によって誰が見ても振り返らずにはいられないボディワークを実現したAbandonen toda Esperanza。もっとも、写真の通り跨る場所は硬いアルミニウムボディのくぼみですし、リアサスペンションだってありません。ポジションもスポーツバイク並みに前傾姿勢です。快適性へのあらゆる希望は捨てて乗ることになりそうですが、注目度は間違いなくバツグンです。