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バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

コロナの影響がまだまだ続く中、東京国際フォーラムであるイベントがあった。規模的には決して大きなものでなく、感染対策であろう事前予約制だが入場無料で誰でも観られる「EVバイクコレクション2021」という東京都主催のイベントだ。

 

報道関係者が注目する「EVバイクコレクション2021」

開場1時間半前から報道関係の受付がおこなわれたが、「イベントの規模から推測するにそれほど多くの報道関係者は集まらないだろう」と思いつつ受付開始10分後に行ってみて驚いた。すごい数の報道陣。おそらく50人以上はいただろうか。無料で誰でも入場可能であるにも関わらず、かなり厳格な受付体制で戸惑ってしまった。

それだけ社会的に注目されているのか、と期待したこのイベントは、クルマだけではなくバイクも多くが化石燃料を使用している現状に鑑み、CO2排出量削減の方向性を探っていること(いわゆるカーボンニュートラルへの貢献)を発表するものだった。

つい先月(2021年11月13日)、ヤマハとカワサキが水素燃料に対応するエンジン開発の協業を発表したが、本件についてはホンダとスズキも同意している。つまり未知の技術である水素燃料用エンジンの研究開発に日本の各メーカーが揃って取り組むかも知れない。

実際に、低公害のクルマとして電動自動車はかなり増えてきている。ご存知の通りハイブリッド車がもっとも多く、水素燃料自動車も販売されている。その点ではバイクよりも早い段階から二酸化炭素排出への対策が進んでいるのは事実だ。

バイクでも、今回のイベントで展示されていたビジネスユースモデルである三輪電動スクーターがいくつか存在するほか、小型の電動バイクも新しく発表された。ただし、満充電での航続可能距離や高額な車体価格から、あくまでも個人でなく店舗や会社単位での購入・使用が現実だろう。

 

バイクに求めるのは”ファンライド”

バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

世界中のバイク乗りが求めているのは、クルマのそれとは大きく異なり「趣味・趣向」としての、いわゆる”ファンライド”が大多数であろう。もちろん単なる移動具として使用している人たちも存在する。

ただ、やはりバイクを楽しんで乗っている人たちが圧倒的に多いのは紛れもない事実だ。決して排気量の問題でもない。小排気量車でもライディングを十分楽しめる。四季を通して風を体いっぱいに感じられること、シフトダウンして車体を傾けてコーナーを走行すること、そして心地よいサウンド(排気音)に包まれること。魅力をあげればキリがないが、これらの醍醐味があるから内燃機関バイクを楽しんでいるはずだ。

誰でも初めてバイクに乗った時の感動を覚えているだろう。コーナーリングが好きでスポーツ的に乗る人たち、のんびりツーリングを楽しむ人たち、オフロードで何度もこけながらも楽しむ人たち、などなど。

 

電動バイクは身近なものになるのか?

バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

電動バイクも将来的には理解できるが、本当に身近なものになるのだろうか。

電動バイクの普及には「充電」というインフラを含めた大きな問題がある。いくら航続距離が150km以上可能になるとしても、充電にはまだ長い時間を要する現段階において、いざ電欠になったらどうなるのか。

また、水素燃料においても問題山積だ。ガソリンスタンドよりも設置コストが大幅に高い水素ステーションが本当に普及するのだろうか。

今は、燃料補給さえできればほぼ無限に走行できる。全世界的に次世代燃料の方向性に目処も立っていない現状、特にバイクの世界は暗中模索ではないだろうか。

クルマとバイクを、モビリティとして一括りに考える人も多いのかも知れない。しかし、バイクは「楽しさ」を求めているユーザーが多いことを知ってほしい。

電気自動車においては、普及率にあわせた急速充電ステーション設置の問題は残るが、一充電あたりの航続距離が今以上に伸びることで現実的に普及する可能性は十分に秘めている。 しかし、バイクは走る醍醐味としての「楽しさ」に重要な意義を持つ。モーターのバイクに操る楽しさを持たせられるのだろうか。心地よいサウンドが体感できるのだろうか。ただし、水素エンジンであればこれらの可能性は感じられるが。

 

課題は本当に見えているのか?

もっとも大きな問題はこのイベントを主催した東京都だ。

公式に東京都の支援策として「東京都は、CO2を排出しない環境先進都市”ゼロエミッション東京”の実現に向け、都内で新車販売される二輪車を2035年までに100%非ガソリン化することを目指しています」と、このイベントでも発表したのだ。2035年ってあと13年しかないのに……。

運輸部門に占めるバイクの二酸化炭素排出量は、全世界で自動車を含む内燃機関のそれと比較すると5%にも満たないはずだが、やはり将来的な対策は必要であろうことは理解できる。ただ、この発表は先日イギリスで開催されたCOP26の影響を受けた政治的パフォーマンスとも見られかねない。東京都は日本で最も人口が多く、唯一「都制」として存在する自治体であることから、これが実現したら当然ほかの自治体も追従するだろう。

いったいこの発表の裏付けはどこにあるのか。

この疑問を解消すべく東京都のブースに取材へ行ったが明確な解答は得られなかった。どうやら都だけで裏付けなくこの「2035年」を決定したようだ。

 

バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

仕方なく国内二輪車メーカーに尋ねるも、次世代燃料に対する二輪車製造はまだ模索中とのことだった。ただし、カワサキだけは250ccクラスの車体に電動モーターを搭載したプロトタイプモデルを展示していたが。

国内二輪車メーカーは世界的規模の企業であり環境問題への積極的な取り組みも責務と捉えているだろうが、東京都は本当にメーカーへヒアリングしていないのだろうか?いくら行政とはいえ関連団体やメーカーなどの意見を参考とせずに、そのうえで期限を決めたのだろうか。

 

バイクの「100%非ガソリン化」は実現するのか?【EVバイクコレクション2021】

そのトップである小池都知事が「マイヘルメットを持ってきたんです」と嬉しそうに言いながら、カワサキのプロトタイプマシンに跨るシーンへ報道陣が殺到したときに思った。このイベントに報道陣が多かったのは、社会的に注目されるイベントとしてではなく、もしかしてこの絵を撮るためなのか、と。

 

関連団体やメーカー関係者からは「バイクの電動化は選択肢のひとつであり”唯一解”ではない」といった意見も聞こえてきており、そこには大いに賛同と期待もしている。

“官民一体”で取り組むべき非常に大きな問題であり、バイクの未来が委ねられているだけに、今後も国や都の動向から目を離してはいけない。

2035年は、あと13年しかない。

Writer: 松並学

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