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老桜と麻雀の音【for Rideコラム】

老桜と麻雀の音【for Rideコラム】

近所には桜の綺麗な場所がいくつかある。中でも100メートル程の桜並木が続く田んぼのわきの道が大好きで、満開の季節には必ずバイクでその下を走る。並木の桜はどれも老木で冬に見ると寒々しく春に綺麗な花を付けるとは思えない、中には幹の一部が腐ったものもある、そんな桜だ。

 

その下をバイクで走る時に、鮮やかな景色を記憶に留めようと思うのだが、簡単に通り過ぎてしまい、振り返ることもせず一瞬だけだから、なんとなく記憶に留まることもなく、また来年だな、なんて思う。ひょっとしたらきっちりと記憶に留めたら、それが生涯で最後なのかもしれない。そんなことを最近は考える。50歳とはそんなものなのか。

 

6畳ほどの和室に、コタツの板をひっくり返した麻雀卓でじゃらじゃらと大人たちが、楽しそうに牌をかき混ぜては積んでいく。部屋はタバコの煙で霞、アルマイトの灰皿は吸い殻で山になっている。大人たちの中に父親がいて、それ以外に見知った顔がちらちら。

 

吸い殻の山の中に、フィルターに真っ赤な口紅の付いた吸い殻が数本。それは明らかに母親のものではなく、子供の頃の俺は、タバコで霞む部屋の中で、その吸い殻を見ながら、何か後ろめたい気分を感じつつもわくわくとして、訳も分からずに麻雀を眺めていた。そんな記憶が鮮明に残っている。

 

どうしてだろうか。桜とタバコの煙がこもる部屋の記憶がどこかで重なるのは。

きっとあの部屋で麻雀をしながら笑っていた大人たちの大半はこの世にいないのだろう。

果たして。老木の桜が寿命を迎えるのと、俺がくたばるのはどちらが先なのだろうか。50年目の桜はそんな気分にしてくれる。

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