「ANGEL」 と名付けられて始まったカスタムプロジェクト
動画にあるこのブラックとオレンジのビビットツートンがアメリカンなマシンは、バージニア州にあるカスタムショップ「インダストリアルモト」のヘインズ氏が手掛けたホンダの125ccスポーツモデル「グロム」がベースのサイドカーです。125ccのサイドカーは、日本ではほとんど見ることはありませんね。
このマシンのカー部分に楽しそうに乗っている少年の名前はニック(16歳)。彼は「アンジェルマン症候群」という15,000人に1人の、下記のような特徴を持つ先天性の病気を持つ青年です。
- 重度の精神遅滞
- 発語が極めて困難
- けいれんを起こしやすい
- ちょっとした刺激に対して容易に笑いが誘発される
- 失調性歩行(ギクシャクした歩き方をする)
ニックの隣でバイクを運転しているのはお兄ちゃんのクリス(26歳)で、ニックは普段の生活をひとりでこなす事が困難なので、クリスとニックはいつも一緒に過ごしていました。
そんな普段の生活の中で楽しそうに自転車に乗る弟の姿を見て「弟にも自分のバイクに乗せてあげて、楽しませてあげたい!」と言うニックの想いからスタートしたのがこの「ANGELプロジェクト」です。
SNSなどで募って集まったカスタム資金
クリスはこのプロジェクトの為に、自分が乗っているグロムをサイドカー仕様にする事を決意。そのカスタム資金を親戚や、友人、SNSのフォロワーに募る事にしました。
元々YouTubeで「iamsoulless」というチャンネル名でモトブロガーをしていたクリス。その発信力は思いのほか強く、この弟を想う兄の気持ちに共感した人達から3日間の間に2,700ドルもの資金が集まりました。
クリス自身も想像以上の反応に驚きを隠せなかったそうです。
それからクリスはバージニア州カルペパーにあるカスタムバイクショップである「インダストリアルモト(Industrial Moto)」にプロジェクトを伝えカスタムを依頼。
インダストリアルモトは世界でもトップレベルの腕前を持つ、カスタムバイク界のレジェンド。そして、ショップのオーナーであるタイラー・ヘインズ氏はアツいハートの持ち主です。ヘインズ氏もこの兄の想いに心を打たれ、「部品の費用さえ賄ってくれたら、カスタム費用と送料は取らない」と申し出たのです。
こんな粋な計らいは中々出来る事ではありませんよね。そうして、ニック専用のサイドカーカスタムがスタートしたのでした。
体の不自由をカバーする為のカスタム
体の自由が効かないニックの為に、ホールド性の高いレーシングシートとグラブバーを装備しています。
足回りは Kenda K761デュアルスポーツタイヤでアクティブな印象をプラス。フレームも深みのあるパウダーコートで仕上げています。
サイドカー下にも「オールテレインサスペンションシステム」と呼ばれるギミックを搭載。ニックに恐怖心を与えない様に考慮されています。
試行錯誤の末に完成した唯一無二のマシン
そうして二ヶ月程のカスタム期間を経てニック専用マシンは完成しました。
そして兄弟の元にカスタムされたグロムが戻って来て、先の動画が撮影されたのです。カスタムを施したヘインズ氏も、動画上で無垢な笑顔で乗るニックの姿を見て、カスタムした甲斐を噛み締めたそうです。筆者も動画を見て「やっぱりバイクって楽しい乗り物なんだなあ」と、初心を思い出させられました。
人が人を想う気持ちが沢山の人の心を動かし、数々のドラマが詰まった特別な価値のあるカスタムマシンが完成したのでした。