全てが予定通りに行かなかった前日だったが、野宿のテントでは思ったよりも熟睡でき爽やかな朝を迎えた。旅の途中でのこういう時には何処でも眠れる自分が少し誇らしく思える。
前日クラッチに違和感を感じたので、朝イチでバラしてみたが問題はない。
9日目は江田島の教育参考館と大和ミュージアム見学
今日は昨日の予定とは逆回り。江田島で海上自衛隊基地の教育参考館を見学して、フェリーで呉に戻って大和ミュージアム見学。
パンとコーヒーを入れて朝飯を食べ荷物を積み込んでしまえばやることはない。時間はまだ朝7時。教育参考館見学時間は10時からで、同じ島内なので10分もあれば着いてしまう。
コーヒーを飲みつつ瀬戸内の海を目の前に朝日を浴びながら読書をし、飽きると近くでこちらの様子を伺っている野良猫にちょっかいを出して遊んで、それにも飽きたのでバイクで島を一周して時間を潰して自衛隊基地に。
見学時間は2時間。もちろん基地内なので自由に行動できるわけではなく、案内をしてくれるガイドさんと一緒に決められたコースを見て歩くのだが、普段では決して入れない施設も見学できるのでとても有意義だ。それでいて見学料もない無料なのだ。
大講堂の中は厳粛な雰囲気で山本五十六も卒業した場所。教育参考館には貴重な戦時中の資料などがたくさんあり、じっくり見ていると時間が足りないほどだった。主義主張など人それぞれあるだろうが、肩ひじ張らずに、時々ユーモアを交えた解説をしてくれるガイドさんと一緒に回る見学はオススメなので、呉方面に行く機会があれば是非。
フェリーで呉に戻ってから心境が複雑に
見学を終えてフェリーで呉に戻る。ここらあたりで心境が複雑になってくるのだ。
呉に着いたのは午後の1時。大和ミュージアム見学後に家まで帰るのは相当にタフな走りになる。恐らく夜通し走らなければならないだろう。当然もう一泊しようと思うのだが何の計画もない。もう一泊で帰ってしまうのか、まだ旅を続けてもいいのではないか。だが独り暮らしの自分には待っている猫がいる。ペットシッターにお願いしているので、エサやトイレの心配はないのだが、さすがに1週間以上会わないと心配にはなる。でも旅は続けたい。そんな感情のせめぎ合いが毎回帰り道でおこるのだ。
そんな気持ちで大和ミュージアムを見学するがどうにも気持ちに入り込まず、まあ先に見た教育参考館の印象が強く残り、いまひとつ大和に入り込めないというのもあるのだが、ぼんやりと会場を見学してしまった。大和ミュージアムを出ると午後3時。さあどうするか。西日本の地図を広げもう一度京丹後方面に向かうか、素直に山陽道を関西に向かうかルートを考える。キャンプするならどこが良さそうかと考えるがどうにも気持ちがのらない。
疲れが出てきているのだ。若い頃のように目的もない旅を何日も続ける体力が落ちてきているのだろう。夏ならばテントも苦にはならないが10月の秋風が吹き始めた季節だ。夜は焚火をしても寒さからテントに早々に逃げ込んでしまう。狭いテントの中では本を読む以外にやることもない。そんなことを考えるとぐったりしてしまう。
姫路のビジネスホテルに電話すると部屋もあるというので予約し、300キロ弱を高速のみで移動。岡山辺りで自分の影が前方に長く伸び始め、なんとなく帰らなければならないという哀愁のような寂しさにまた襲われる。夜の7時にホテルにチェックインし、近所の居酒屋で晩飯を済ませ、明日はどうしようかと考える。帰るのか、まだ旅を続けるのか。地図を眺めるが行きたい場所も見つからず、集中できない。
帰ろうか。自分に言い聞かせるのにそれほどの時間が掛かるのだ。
姫路のホテルにチェックインし、翌朝、帰路へ
翌朝ホテルの朝食を食べると、一路家路に向かう。また夕陽が背中からあたり、影が長くなるころまでに家に着ければと考えていたが姫路からの500キロは想像以上に速いペースで走ってしまい、夕陽になる前に家に着いてしまった。猫との再会は喜ばしいが、荷物を下しながら「次はいつ旅に出れるかな」と考える時の寂しさは何度やってもなれるものではない。
ひとり旅の良さを再確認し、時には人恋しくなって、バイクの心配をしつつ今日の寝床を決め走る。もうそれほど感動できる道があるでもなく、時としてどこの県を走ろうと同じに思えてくるときもあるし、北海道だろうと、四国だろうと、九州だろうと海沿いなんかどこでも一緒だと思えてくることだってある。でも時々何気ない里山の中に感動を覚えたり、何でもない空き地で疲れ果てて野宿するときに、どうしようもない楽しさに包まれたりすることがある。そんなことの繰り返しが旅なのであろうが、そんな単純なことがやめられない。
まあそれも悪くはないのだが。
こうして10日間、2,447キロの旅が無事に終わったのでした。