「普通の原付を買うくらいなら、少し頑張ってひと味違うバイクが欲しい!」という考えからベスパを選択肢に入れる人も少なからずいることだろう。しかし、レトロな外観を誇るバイクは、その性能もやはりレトロであることを理解しなければならない。
ここでは、ベスパという乗り物が、いかに国産のスクーターとは異なる乗り物なのかを、日本国内で最も頻繁に出回っているビンテージシリーズを例に挙げて紹介していこう。
エンジン始動はキック一発!
まず、セルは当然のように搭載されていない。車体右側にあるキックレバーを蹴り付けてエンジンを始動させることとなる。ビンテージシリーズは50〜125ccなので、キック自体はそれほど重くはないのだが、チョークの使い方がおかしいと、なかなかエンジンはかからない。エンジンが冷えているときはチョークレバーを引っ張りスロットルを開けずにキックすることがこつとなる。また、チョークを引いた状態で3回ぐらいキックしてかからないときはチョークを戻してアクセルを開けてチャレンジしてみるといいだろう。
グリップチェンジには慣れが必要
ベスパの特徴の一つであるグリップチェンジについて説明しよう。通常のバイクとは異なり、ベスパのシフトは足下ではなくハンドルの左側…というか、ハンドルそのものがギアとなっている。クラッチを握ってハンドル左側をひねることでギアをチェンジさせることとなる。この操作は少し乗って慣れてくれば楽しさを味わうこともできるが、慣れない状態では混乱を招くこととなるだろう。最低限、オートマチックではないという理解が必要だ。
ブレーキはフットブレーキとハンドブレーキ
バイクにおいて最も重要な部位であろうブレーキは前後ともにドラム方式を採用している。フロントブレーキは右手でレバーを操作し、リアはフロア右側にあるフットブレーキを踏むことでブレーキがかかる。しかし、ベスパのブレーキは本当に効きが悪い。前輪ブレーキは全開で握っても車両が動いてしまうこともままある。
後輪ブレーキはそれなりには効くが、その分、ロックしてしまう可能性も高くなる。ディスクブレーキにカスタムしようとすればフォークごと変更せねばならず、とてつもなくカスタム費用がかさんでしまう。したがってベスパ乗りは必然的にエンジンブレーキを多様することを余儀なくされる。前後ブレーキはあくまでもオマケ的な存在と考えるのが無難である。
なお、ブレーキの球が切れている時にリアブレーキを踏むと、配線の都合によりエンジンが自動的に止まるという現象が起きる。ブレーキを踏んでエンジンが止まったら、慌てずにブレーキの球をチェックしよう。
アクセルは自分で動かさなければ戻らない
比較的、新しめのPX-FL以降のベスパはアクセルを回しても自動的に戻るのだが、ビンテージシリーズのアクセルは回したが最後、自分で戻すまでそのままの状態をキープすることとなる。慣れれば片手運転が楽になるのでありがたいとすら感じるようになるが、操作になれるまでは一苦労することになるかもしれない。
エンストがガス欠の目安
ガソリンメーターも当然のように装備されていないので、ベスパ乗りは通常走行時にエンストしたらガス欠だと判断するようになる。しかし、ガス欠になってもリザーブがあるから安心だ。シート下にあるコックレバーを”R”と書いてある方向にひねり、再びエンジンをかければ何事もなかったかのように始動できる。ちなみに予備タンクは約1.5L入るようになっている。
給油時こそ注意が必要!
ベスパの最大の特徴と言ってもいい混合給油とは、要するにガソリンを給油する際、同時に2ストオイルも一緒に混ぜて入れなければならないということだ。これを怠ると、エンジンはすぐに焼き付いてしまうこととなる。ベスパ乗りが最も注意すべき点であり、気を使わねばならない儀式でもある。
混合比は50:1だが、オイルの量は付属のメジャーカップで計ればいいだけなので、それほど手間ではない。ただし、給油の際、タンク内にゴミなどが入ると故障の元となるので、メジャーカップはビニールなどに入れて保管し、常に奇麗な状態を保つなどの配慮が必要だ。
乗り難さも”アジ”の一つ!
このように、ベスパについてつらつらと書いてみたが、結果、デメリットの羅列のようになってしまった…。
実際のところ、誰にでも乗れて、誰にでもすぐに楽しめる国産スクーターに比べると、ベスパは本当に乗り難く、クセのある乗り物だ。鉄のボディが災いし、スピードも極めて遅い。いざ道路に出ると、交通の流れに乗るのがやっとというところだろう。ボアアップしようが、カスタムを施そうが、ノーマルのスクーターの性能には到底およばないのである。
しかし、その乗り難さ、不便さこそが、ベスパの味であると思えるようになると、だんだん病み付きになってしまう。
いかがだっただろうか。
ベスパは、「スピード、手軽さ、便利さ」とはほど遠い乗り物だが、それらを差し引いても余りあるほど魅力に満ちあふれている乗り物でもある。
この春、困難を廃してベスパユーザーになってみませんか?
ビンテージ系のベスパがお好きな方はこちらもご覧ください!