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若干暑さに気後れするが、北に向かうためバイクを借りることになった。
目的地の岩手県までのロングツーリングと考えると、どうしてもそれなりの排気量だとか、ウィンドプロテクションはどうだとか、荷物の積載がどうなってるかとか、多くのライダーが悩むところ。
そんな中、ヤマハ「テネレ700」を借りることになった。実は以前にもテネレに乗ったことがあり、足はツンツン、そしてたまたま高速道路で渋滞にはまり、慣れない重めのクラッチミートと不安な足つきで疲れ果て、決して良い思い出ではなかった。
しかし、ギアを入れる、アクセルを開ける、クラッチをゆっくりリリースする、バイクを安定させる、そして周りの環境に合わせて加速し、コーナーに入る前の減速、ブレーキング、そしてコーナーを抜ける加速、スピードに合わせてギアを変速する一連の流れが、どうも乗れば乗るほど楽しくなってくる。おおげさに言うと、高校生の時に初めてクラッチ付きバイクに乗った時の楽しい感覚が蘇り、バイクの楽しさがリセットされるのである。
昨今のバイクは標準装備でサイドバックや液晶ディスプレー、ナビ機能などが備わったツーリングに最適なモデルがいくつも存在するが、今回の旅はあえてテネレを選択してみた。
レンタルバイクの荷物の積み方考察
今回の旅ではリアフェンダーにある4つのフックを利用して荷物を積載する他、タブレットや小物は取り出しやすいようにタンクバッグも使用することにした。
ところが、ガソリンタンクは樹脂カバーで覆われており、タンクバッグのマグネットが付かない。こんなこともあろうかと、樹脂カバー部にマグネットが付くようにあらかじめ100円均一で購入した金属を貼り付けて対処したが、どうも道中で動いてしまうので結局タンクバッグは後ろにしまい込んだ。
レンタルバイクなので本体にあたりそうな部分には、事前に購入した貼って剥がせるテープで傷がつかないように武装。(これで返却時の車体チェックで、冷や冷やすることもない。)
そして、あまり好みではないが実機能的なので、今回はスポーツバッグを使用することにした。
おそらく、みんなも悩んでいるであろうバッグのタイプについて、ちょっとまとめてみた。メーカーはそれぞれ思惑があるので、ハードケース他、それ以外のバッグも中々互いのメリット・デメリットは言わないのが現状だがあえて言わせてもらう。
ハードケースのメリット・デメリット
メリット
- 荷物の出し入れがしやすく、雨が降っても濡れない
- 多少なら容量オーバーでも詰め込める
- 着脱もしやすいく、レインスーツ・工具などを常備できる
- 二人乗りにも支障がなく、鍵付きが主流なので盗難防止にも最適
デメリット
- 横幅が広くなったぶん、ガレージなどで場所を取ってしまう
- 狭い駐車場などに駐車する場合、他の車両と干渉して傷がつかないか神経を使う
- 取り外した際、バッグ自体が場所を取る上に、形状から置いても意外と安定しない
- ハードケース本体の価格が少々高めである
- 取り外して持ち歩くのには不向きで、インナーバッグは追加で購入する必要がある
ツーリングバッグやソフトケースのメリット・デメリット
メリット
- 車種を問わずさまざまなバイクでも装着できる
- 購入価格が比較的リーズナブル
- タイプ・サイズが豊富
- 最近では種類が増え、機能性も上がっている(ボトルホルダーや容量調整など)
デメリット
- 素材によってはレインカバーが必要
- ロックできるハードケースと違い、いたずらが不安
- タイプによっては脱着・固定が面倒なものもある
- 装着時のスタイリングがフィットしないこともある
- 装着すると二人乗りがしにくくなる場合もある
- 車体に擦れて外装に傷がつく場合がある
ツーリングネットのメリット・デメリット
メリット
- 普段のスタイリングを極力維持できる
- ツーリングネットを外しても荷物にならない(サイズ&重さ)
デメリット
- 見た目が格好悪い
- 車体側にフックなどの引っ掛け部分がないと、縛るのが少し大変
- 荷物の出し入れがしにくい場合もある
- レインカバーなどの雨対策が必要
- 落ちないように強めに縛るため、柔らかいものを入れると変形してしまう
そして、マグネットタイプやバンドタイプのタンクバッグを樹脂カバーの上に使用する場合はそれなりの工夫が必要。※マグネットが付く金属を、カバー側に接着する必要があります。
また、バンドタイプもこすれると傷が付くので、傷つき防止の配慮が必要だ。
準備万端!いざ東北を目指して発進!
準備が終わり、いざ出発。東海地方から首都圏を抜けるのはちょうど通勤時間帯が始まるころ。距離的には遠回りになるが、圏央道を選び、東北道に入る。朝からぐんぐん気温が上がるので、渋滞は勘弁してほしい。走っている方がまだマシという考えである。
ここ数年の尋常でない真夏の暑さは走っていれば何とかしのげると思っていたが、やはり身体を疲労させる。
この日のために購入したプロテクター内蔵のメッシュパンツは活躍してくれているが、それでも長時間太ももやふくらはぎに直射日光が当たると暑くなってくるので、サービスエリアで100円均一で買った化粧水用スプレーで水を掛けるが、まさに焼石に水だった…最後はトイレでじゃぶじゃぶ水をかけていました。
ここまで来たら、水冷のウェアが出てこないと夏はバイクに乗れなくなりそうだ。
高速を長時間走っていて、テネレの良い点にいくつか気付いたことがある。一つは足を広げると、かえってエンジンを通過した暖かい風にあたってしまうことだ。二つ目はニーグリップ気味の方がむしろ涼しい。色々、足幅を遊んで見つけた結果である。
さらにもう一つ、これはこの機種に限らず少し意外だったのはシートの座り心地。シートの座り心地が悪いと、サービスエリアで降りるときに痛くて蟹股のまま降りる最低の気分。長時間乗っていて休みたくなるのはお尻が痛くなるか、ヘルメットで頭が痛くなるケースが多いが、その両方とも今回のテネレはない。
ただし暑さでサービスエリアで身体に水分を補給、ある程度はサービスエリアに毎回降りて、そしてメッシュの上下に霧吹きどころか、水を掛けまくる。効果は15分程度だが。
以前乗ったTRACER9 GTもとても快適なシートだったことを思い出す。テネレはTRACER9 GTほどではないが、それでも充分に快適である。
さらに、ハンドルの振動の山がないのでミラーが見えくくなる回転域もなく、手もしびれることはない。目線が高いので、後方から近寄るクルマなどにも気付きやすい。
特に良いと思ったポイントは、最近のアドベンチャー的なモデルの空力の作り込みだ。決して大きくはない正面のシールドとハンドルグラブカバー。しかし、程よい風当たりは巻き込みも風切り音もない。90年代、カウリングを大きくして身体に風が当たらないようにするという時代からすると、ちょっとした革命を感じてしまう。
時々やりがちなことは、同じポジションに飽きるとリアステップに足を載せることがあるが、これは少しエビぞり気味になり、あまり多用しなかった。足を地面に着くときに、ステップが邪魔になると結構危ない思いをすることがあるが、テネレはそれもない。
しかし、シート高があるので、180cm以上の人で30代くらいでないと厳しいのではないだろうか。快適に乗るには、ローダウンをした方がいいかもしれない。なぜ年齢を書いたかというと、中高年になると足が上がりずらくなる。はるかに日本人より体格の良い、ドイツ製バイクのシート高は充分に低くして乗れるようになっているのに、なぜこんなにシート高があるのかは謎だ。
目指すは未踏の土地、金田一温泉へ
高速を降りると道を行き交うクルマが減り、信号もがぜん少なくなった。左右に広がる田園風景に囲まれ、向き合うのはバイクと乗る自分。パタパタと時に乾いたエキゾーストノートが耳に聞こえ、ひたすら目的地に向かう。
自然に溶け込む自分を邪魔するものはいないのです。そう、このテネレは操る以上でも以下でもない、自分の操る範囲のライディングフィールでも何とも言えない楽しさが、このテネレの味わいなのです。
クラッチミートで過剰なパワーフィールもこないし、多少道にまごついてスピードが落ちてもウェイトによるふらつきもなく、そしていつでも実にナチュラルなハンドリング。疲れを増幅されるようなギアシフトの不快さも、ハンドルの振動も、シートの硬さもありません。すべてが腕の中に収まるフィーリングに集中。あ、バイクに乗るってこの楽しさだ!と。
日本を走っている限り、パワー不足はありませんし、的確なギアレシオは思った通りの加減速を当たり前のように繰り返してくれます。
やっぱりバイクには彩が欲しい
筆者が個人的に最近残念に思っていたのは、グレーやマットカラーなど、どちらかと有彩色を車体に使わないバイクカラーのトレンド。クルマなら全体のボリュームで迫力なり、すごみなり感じられるが、バイクくらいではすごみは感じにくい。メリットは直射で表面がチンチンに熱くならないくらいかもしれません。
対して今回借りたテネレはまさに真っ青!やったねと言う感じ。彩がついているだけで気持ちもアップします。バイクはやっぱり彩がある方がどこでも映えます。
走行距離が720㎞を超え、ようやく着いたここは岩手の盛岡よりもさらに北に行った金田一温泉に新しくできた宿。かなりローカルに来たので駐車場のスペースは充分あるはず。バイクで行くことを宿に伝えていないので、若干の不安で敷地内へ。
しかし、あっさりと駐車スペースに案内されて、あれ、ちょっとバイクで泊まるのに、以前よりも卑屈にならなくてもよくなったのかな、と感じました。ずいぶん前の話になりますが、都内の仕事に大型バイクで向かい、遅くなったので新宿西口のシティーホテルで宿泊可能か伺ったら、ホテルマンにバイクの止めるところは外の自転車置き場だと言われ、悲しい想いでそのまま泊まらず帰路についたことを思い出しました。
みちのく旧車ミーティング。先だった兄を思い出す
今年、たまたまバイクの話で盛り上がった友人に聞いた、東北で30年以上も続く旧型車のミーティングがあると聞いて、会場に向かいました。首都圏や中部でも同様の集まりはあり、カワサキのZやホンダのCB等はよく見ることができますが、ここにはまだあったのかと言うような珍しいモデルがたくさん参加していました。
こちらは自動変速機を採用した、1977年に発売されたホンダEARA(エアラ)です。
目に留まったのは、ホンダ「CX500」の輸出仕様。日本でのモデル名は「GL500」で小さなカウルがついていました。シリンダーをわざとひねった縦置きOHVエンジン、シャフトドライブの奇抜な技術もひねりまくりのモデルでした。
今は亡き兄がまだ実家で一緒に住んでいたときに、庭に置いてあったGLを思い出しました。兄が病気になり、代わりに自分が処分するために乗ったのが最初で最後でした。もっと仲良くしておけばよかったなとしみじみ。
旅の始まりをワクワクさせるバイクの軽さ
一夜明け、岩手から一気にまた720キロを戻る気もなく、途中、会津若松で一泊しました。出発の朝、バイクを押し歩きで前後移動すると、バイクの軽さに感動します。
ある年齢になると、または腰痛を持つ方は、重いバイクと疎遠になることがあります。後ろに押し歩きしたときに感じるバイクの重さがひとつのパラメーターです。テネレは軽かった。
本当は福島に入り、ひなびたおもむきのある温泉に寄るつもりでしたが、急遽予定を変更。今日はライダーの名所へと向かいます。
三度目の磐梯吾妻スカイラインですが、二回目は大雨で転ばずに抜けるのが精一杯でした。今回は天気もバッチリ。ついつい写真を撮りたくて止まる機会も増えてしまいます。
福島方面に抜ける時、浄土平の手前の方がどちらかというと緑に囲まれて、眺めも良くて好きかなと思いました。
戻ってきたライダー同士のコミュニケーション
普段は硫黄ガスのせいで、止まるなの看板が多いですが、工事一方通行で一時停止。行きかうライダーも互いに手を振ります。
そういえば以前はピースサインだったなと。昔の北海道など、もういやってほど行きかうのでピースサインに疲れたこともありました。今どきはピースサインじゃなくて、カジュアルに手を振る。そう、今は何でも良いじゃん。
SUVと同じで高い目線はやはり状況把握に有利
あっという間に福島インターからまた長い高速道路を経て、都内に到着。
目線の高さはほぼ立っている状態と変わらないので、さまざまな意味で視界が広くて良いというのがこのタイプのバイクで感じることです。それは速度を気にしながら走る高速道路も、都内のごちゃごちゃした道も同じでした。
乗って操って楽しいこと以上に何がある?
福島の途中で、メーカーのサイトやYouTubeを見ると、このテネレ、そりゃ腕があればね、どこだって飛んだり跳ねたりできるけど、自分は自分、高校生時代に電気が走ったバイクの楽しさを思い出させてくれたテネレ、音楽もフル液晶メーターも連れも居ないけど純粋にバイクに乗ることを楽しめた旅でした。
正直、発売当初は「またエンスー向けのバイク作って…」と思ったけど、今の時代、自分の技量で自分流に楽しむことが大事。それがテネレでもできると再認識しました
最後にもう一度、このシート高は誰向けやねん…