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誰もが一度は大きな魅力を感じる「オーダーメイド」。その実は客と職人が歩み寄り、共に良いものを作っていくというある種の共同作業であり、そして完成するのはたった一人専用の、世界で一つだけの製品です。
今回はおそらく世界で一番わがままを聞き入れてくれる、オーダーメイドグローブのプライベートブランド「CACAZAN」に特製のグローブを作っていただきましたので、その一部始終を皆さまにお届けします。
プライベートブランド「CACAZAN」とは?
全国の手袋生産量のおよそ9割を占める香川県で、40年もの時間を手袋職人として実績を積み上げてきた出石尚仁さんが、2007年に立ち上げたオーダーメイドグローブのプライベートブランド「CACAZAN」。
徹底した品質管理と、長年の修行で磨き上げた手袋のバランス感覚によって編み出されるグローブはまさに至高の品。かの代表的なグローブブランド「デンツ」に張り合える数少ないプロフェッショナルブランドです。
渾身のワガママを依頼してみた!
今回は前評判を参考に、少々失礼ながら「どこまでワガママできるのか」を検証するため、自分なりに欲しい手袋をメモに書き出してみました。
筆者は多少手汗をかく方なので手のひら部分は通気性のいいパンチング処理にして、ステッチはオレンジかターコイズブルー、ボタンはオリジナルの刻印のものを使用。
デザインもシンプルながらに手の甲に王道の3列ポインツを配置し、スリットは手の甲に指定しました!
「店で見かけたら絶対一目惚れして買っちゃう手袋」をイメージしてデザインしました。さんざんワガママなリクエストを盛り込んだ自由帳を持って、いざ受注相談会へ!
第23回 CACAZAN受注相談会(2019年1月)
ロケーションは汐留シティセンターの「The Momentum by Porsche」というオシャレなカフェ。
というのもおそらく、オーダーをされた方の商品を見た限りではスポーツカーに合わせたドライビンググローブをオーダーされる方が多いようで、親和性が高い場所なのでしょう(筆者の勝手な見解です)。
早速会話のテーブルにつくや否や、机上がまるで工房のデスクのように資料で埋め尽くされました。持ち込んだ資料を一読した出石氏は続々と参考素材を取り出して、リクエストをすべて叶えるべくカウンセリングをしてくださいました!
簡潔にまとめると、リクエストに対する対応は以下のような感じで、
- パンチングは耐久性が下がるため厚手のディアスキンを使用
- ステッチに使う糸の色は、革に縫い込むと発色が変わる
- オリジナルボタンは可能。郵送してもらえれば付ける
- 3列ポインツは余裕。
というような形になりました。
「これは無理ですね」などの言葉は一切なく、テキパキと設計図をリライトする様はとってもカッコよかったです!
作る形が決まったら最後に手のひらをスキャニングしてサイズを測定します。あまりの本格さに思わず声が出てしまいました(笑)
これにて依頼は一通り終了。支払いもこの段階で済ませますが、気になるお値段は最後に取っておきましょう……。
製作過程ご紹介!
まずスキャンした手をもとにカードボードで手形を作成します。カードボードにはすでに指定したデザインのガイドラインが入っているのが伺えます。
手形に合わせてリクエスト通りのパンチングが施された革を切り出していますね。手の甲のパーツやベルトと一緒に組みあげていきます。
東急ハンズにてレーザー刻印サービス(データ納入費1,080円、レーザー刻印件数×1,080円)を利用して作成したバネホックボタンを使用していただきました!筆者のネームにちなんだ「ZNG」を刻み込んでやりました(笑)
仕上げの工程を経て、いよいよ完成です!
いざ開封!手元に届いた商品の完成度やいかに!?
※実際には箱自体もさらに厳重に包装され、中身の商品もしっかりラッピングしてありました。記事の演出上の都合で実際のイメージとは異なる撮影をしています。
製作依頼からおよそ2か月強、ついに完成品が届きました!上品な箱のフタを持ち上げるとそこには……!
か、かっこいい!もし銀座の阪急メンズとかで売ってたらどんな価格でも即購入するレベルで好みドンピシャなグローブです!
早速着用してみると、今までで体験したことのない、しっとりとした吸着感でピッタリと手にハマりました!
指先に余りなんてもちろん皆無で、まるで手がそのまま真っ黒になったかのような美しいシルエットに惚れ惚れします……。
手のひら側の生地はしっかりパンチングされ、通気性がよく手汗をかきがちな筆者でも全然気になりません!
とっても大満足な出来上がりで、外でもついつい手を眺めてしまいます(笑)
今回こちらの手袋に使用したニュージーランド産の鹿革(ディアスキン)はその特性上、中性洗剤での洗濯が可能なので経年の汚れ対策も手軽にできてしまいます。
鹿革は他の動物の革(ヒツジや牛など)と比べ繊維が非常に細かく、柔軟性を長期間保ってくれます。しっとりとした、しなやかな感触がわずかなケアで長続きするのはとっても嬉しいです。
さらに、CACAZANではダイキン工業株式会社のケミカル技術「レザノヴァ加工」によって水に強い皮革を実現しました。簡単に解説すると、新規フッ素化合物を、皮革の絡み合ったコラーゲン遷移に浸透結合させることで、水が浸透するスペースを奪ってしまうのです。
革の供給途絶える!? 鹿革の製造メーカーの倒産
残念なことに、今回使用した鹿革の製造メーカーが2019年2月に倒産廃業になってしまったそうです……。手袋業界でも有力な仕入れ元だったようで、非常に大きな波紋を生んだそうです。
レザノヴァ加工が施された革は在庫のみになってしまったようで、鹿革はどうにか手配できたものの、エチオピアシープスキンは国内手配が困難になってしまうとのことで…… よいものが手に入りにくくなるというのは、なかなか堪えますね。
最高級グローブ、気になるお値段は…?
デザインだけでなく素材までも至れり尽くせりな、まさに最高峰のグローブです!
1月の末からおよそ70日ほどで完成したこちらのグローブのお値段は……3万9,960円(税込)+オリジナルボタン代4,320円!
「手袋界のロールスロイス」と名高いデンツのグローブの一般向けモデルが1万円~8万円であるのを鑑みると、同格のクオリティかつフルオーダーメイドでおよそ4万円というのは非常にお買い得だと感じました。
大切な人へのプレゼントや、自分へのご褒美としてオリジナルデザインのグローブ。なかなかにいい選択肢なのではないでしょうか?
注意すべき点として、制作にはそれなりに時間をとってしまう場合があるので、2か月ほど前もって準備する、もしくは今から見積もり相談してしまうというのも手かもしれませんね!
以上、世界一ワガママを聞いてくれるグローブメーカー「CACAZAN」のご紹介でした!