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ステアリングヘッドからリアホイールまで走る分厚いフレームに、近代的なショートテールのトラッカースタイル……。Coolとしかいいようのないこのバイクは「The Omen(オーメン)」と名付けられています。
制作したのはアメリカ・ウィスコンシン州に住む若干25歳のプライベートビルダー、ジェイク・ドラモンド氏。6歳からダートバイクを楽しみ、18歳で最初のカスタムバイクを制作するなど、子供の頃からバイク一色の人生を歩んできたツワモノです。
1/10スケールモデルでプロトタイプを検討
流れるような曲線を描く一本のフレームを中心に据えたトラックレーサー……。ジェイクが最初にオーメンを構想した際はそんなぼんやりとしたイメージだけがありました。普通であればこの後は、鉛筆と紙で何枚もデザインスケッチを描いたり、Photoshopや3Dレンダリングを使用して具体的なスタイルを詰めていくことでしょう。
ですが、彼がカスタムバイクを視覚化するために選んだのはまったく異なります。なんとステンレス鋼からパーツを切り出し、1/10スケールモデルを作り上げてしまったのです。置物としてみてもかなり完成度が高く、きちんと車輪も回るようにできています。選ぶ材質と言い、金属加工に対する造詣の深さを伺わせます。
実はこうした縮小モデルをベースにする場合、実際の大きさに拡大するとうまくいかないことが多かったりします。わかりやすいのがミニカーやモデルカー。よく見比べてみると実車とはディテールや細部の縮尺が異なっていたりします。そのサイズでかっこよく見えるベストなデザインがあり、玩具メーカーは日々頭を悩ませているんです。
逆に実車の開発でも、こうしたスケールによる印象の違いはよく問題になってて、デジタル全盛の今でも実寸のクレイモデルに注力しているメーカーも少なからず見られます。
拡大しただけでは生まれないカッコよさ
ジェイクはきっとそうした問題を肌で感じていたに違いありません。簡易的な1/10モデルをただ拡大したのではなく、実車ならではのディテールと調和するようにしっかりと仕上げました。
アルミ製の極太フレームにメインフレーム後端よりも幅広なアルミスイングアームを組み合わせることで、構想していた一本のフレームとしてのデザインを、機構を損なうことなく組み上げています。
ちなみにこの継ぎ目の内部にモノサスが入っているので、きちんとスポーツバイクらしい乗り心地を味わえそうです。
中心に収められたエンジンはヤマハMT-07の689 ccツインエンジン。リッターよりもコンパクトながら十分なパワーがあります。ヤマハがフラットトラックレーサーで使用しているエンジンでもあり、オーメンにはうってつけです。取り付けには、特注のスチール製マウントと前方サブフレームを使用しています。
フロントマスクはトラックレーサーらしくヘッドライトレスに見えますが、ちゃんとついています。
答えはエアダクトの中。メッシュからちらりと見えるライトがカッコいいですね。ヘッドライトがバイクの印象を悪くしていることもままあるので、このアイディアは他のカスタムバイクでも応用が効きそうです。
鋭いテールや燃料タンクも、もちろんハンドメイドです。ラジエーターのサイドカバーとフロントナンバープレートに加え、ブレーキフルードリザーバー、スイングアームピボットキャップなど細部にいたるまで、彼の高い技術で一つひとつ仕上げられています。
側面排気となっている印象的なステンレスエギゾーストに至ってはマフラー屋さんの仕上げに引けをとらないほど。まだ溶接をはじめて3年もたっていない若者の作業とは思えません。
こうして作り上げられたオーメンは、ヤマハR6のフロントフォークとブレンボのラジアルマウントキャリパーなどで足回りを硬め、バイクとしての完成度を高めています。その名の通り一度乗れば、爽快なライディング体験を生む“兆し”となってくれそうな一台です。