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現在に比べて独自性の高いデザインや機構を持つものが多い、90年代以前のいわゆる「旧車」と呼ばれる世代のクルマたち。古いが故の手のかかり具合はあるものの、愛好者は少なくありません。
しかし、近年においては一定年数を経た旧い車両に対して税の重課がされるようになっており、旧車好きにとっては世知辛い世の中になっています。
旧車乗りの悲哀
本当に気に入って乗っているうちにいつの間にか・・・・・・とか、現行当時に手が届かなかった憧れの車両を今になって入手したり、若いころに乗っていたあの車にまた乗ってみたくなって等、「旧車乗り」となる過程は様々かと思います。
ガレージに飾って日々磨いて眺めて悦に入るだけであったり、都度トランポに載せてクローズドな環境に持ち込んで走らせるのであれば、保管場所さえあれば問題にならないのですが、そういった方は比較的少数派です。
公道を走らせる上では、ナンバープレート交付(登録)に伴う車検と税と保険が必要ですね。
しかしながら序文で述べたとおり、現在では旧い車両に対しては一律の税の重課がされており、主に趣味として使用頻度や走行距離も大して伸びることのない場合であっても、余分な負担を課せられています。
くわえて「俺にはこの一台!」で割り切れる人もいるでしょうが、日々の実用をこなす上での利便性・快適性・信頼性の考慮であったり、どうでもよい用事での消耗を避けての温存といったところから、新しいものを交えての複数台での運用をせざるを得ず、趣味の上での好き好んでとはいえ、二重の負担となっている場合もあります。
日本で旧車にかかる税
日本で自動車にかかる税といえば、購入時の消費税や走行に必要な揮発油税の他に、自動車税・自動車重量税といったものがあります。
自動車税(軽自動車税)は「車両を所有することに課せられる税」で、自動車重量税とは「車両の重さに課せられる税=道路の使用にかかる税」です。それぞれ登録1台毎に納付することとなっています。
いずれも車両区分(自家 / 事業、二輪 / 四輪、排気量、重量)により一概には言えないため大幅に端折りますが、登録から13年を過ぎた原付以上の二輪 / 四輪は自動車税で例外なく15~20%ほどの重課と、重量税で減免を受けられず、かつ13年超、18年超でさらに重課されます。これが「旧車にかかる税」といえるでしょう。
二輪の場合は元の税額が低いだけに重課もそれほど負担には感じませんが、四輪では春先に届く封筒を見ただけでゲンナリしてくる程度の金額になってきます。
世界各国の旧車に関連した税制
では、世界の自動車先進国といえる国々ではどうでしょうか?
車齢込みで日本での自動車税に相当する制度を比べてみた結果が次のとおりです。
アメリカ
少しでも郊外となると「ちょっと買い物に」でも自動車が必需品となる環境が多く、世界で最も早くモータリゼーションが進んだアメリカ。州ごとに差異はあるようですが、年数や排気量による区分はなく、ナンバープレート発行にかかる登録料(20~60ドル/年)のみで済むようです。
自らが産油国でもあることからガソリンも安く、車検も排ガスのチェック程度で簡単かつ安価に済むようで、大排気量車やカスタムといった文化の醸成にも頷けます。
ドイツ
自動車発祥の地であるドイツ。おおよそは日本と似通っていて、100cc刻みでの排気量とCO2排出量に課税され、燃料種別によっても税額が変わりますが、概ね日本よりは安い程度のようです。
しかし日本と大きく違うのは「Hナンバー」の存在でしょう。Hナンバー=ヒストリック登録で、30年を経過した車両は「工業製品文化遺産」として認定され、税額は191ユーロ/年となります。
排気量(小排気量)や触媒の有無によっては、Hナンバー取得のメリットがないとも言われてもいますが、こういった制度が存在しているだけでも、自動車をとりまく歴史と文化といった点においても先進の証といえそうです。
イギリス
では、分野を問わず旧いものを大切にする文化のレベルが高いイギリスではどうでしょうか?
近年の車種についてはCO2排出量で区分されており、基本的には排気量が大きくなるほど課税される日本と同様ながら、若干安くなるようです。
しかし、特筆すべきは
- 1974年1月以前に製造された自動車は課税対象外
- 2001年3月以前に登録された1,549cc未満の自動車は135ポンド/年
- 2001年3月以前に登録された1,550cc超の自動車は220ポンド/年
と、旧い車両を維持運用していく上では、非常に優しい制度となっているのは流石イギリスといったところです。
環境負荷と文化遺産継承との相反
環境保護に躍起になっている世界情勢から、環境性能に劣る旧い車両を狙い撃ちで新しいものに置き換えていくという目的からすると、現在の日本の税制は理にかなっているのかもしれません。
しかし、環境保護という錦の御旗の元では、環境性能には劣りながらも当時の世相を身をもって表す旧車そのものと、それを維持愛好する文化は切り捨てて然るべきものなのでしょうか?
旧車というものはそもそも少数で、個々人の趣味の範囲で限定的にしか運用されないだけに環境負荷は微々たるものであり、後世に伝えるべき文化遺産の一部と見做しているのが、上項でのドイツやイギリスでの考え方のようです。
加えていえば、一台の旧車が生き長らえることによる環境負荷と、次々に新しい型に2台3台とスクラップ&ビルドを繰り返した場合の環境負荷とどちらが大きくなるのか?といった考え方もあるでしょう。
日本での旧車維持に明るい兆し?
かつて環境保護の声が今ほど高まっていない時代とはいえ、1999cc超の車両への課税が大幅に減免されたことがありました。当時の社会的な世相や外圧の存在は勿論ながら、メーカーを主とした経済団体の積極的な働きかけも当然あったと思われ、そのため現在の税制も「新しいものを売らんがため」の同様のものではないかと邪推してしまうところではあります(笑)。
しかし日本のメーカーも最近になってドイツの老舗メーカーの取り組みを範としたのか、まだ限定的ながら自社の旧いモデルを自社にてレストアするという事業を起ち上げる社が出てきたり、旧い人気モデルの純正パーツの再生産・販売するといったニュースを目にするようになりました。
前述のレストアやパーツ再販が事業として成り立っていくのは当面難しいのかもしれませんが、日本における新たな価値観として旧車への理解が進み、その文化的価値が欧州並みに定着してくれば、欧州と同様に現税制が改められる日がくるのかもしれませんね。
参考ーflickr