この記事の目次
ファッションや音楽の業界における流行は、リバイバルという形でしばしば繰り返されます。ですが、バイク業界ではどうでしょうか?
バイクとファッション・音楽が最もマリアージュされていた時代、1990年代後期〜2000年代前期のストリートバイクブームを振り返りながら、これからのバイクの流行予想と、再燃の可能性について考察してみたいと思います。
流行には周期がある?
一般に言われる、特にファッションと音楽についての流行は20年周期で繰り返すと言われており、理由は諸説あります。
中でも最も納得できる説は、仕事場において発言力の高いポジションとなった30〜40代の業界関係者が、ティーンエイジャーだった頃に影響を受けたカルチャーをプッシュすることにより、結果として20年前の流行が繰り返されるという説。
確かに、流行を伝播させるのは10〜20代の若者が中心ですが、それを仕掛けているのは30〜40代のビジネスマンですから、かなり合点がいきます。では今から約20年前の1990年代後期〜2000年代前期には何が流行っていたのかを振り返ってみましょう。
音楽における流行の再来
2020年現在、音楽業界はサブスクリプションという大波によってユーザーの消費行動からマネタイズに至るまで劇的に変化しました。しかしながら、音楽を聴いて楽しむという本質はなんら変わっていません。
1990年代後期〜2000年代前期のポップスを、自分流に噛み砕いて現代版にアップデートさせたのは、いま若者に絶大な人気を誇るシンガーソングライターのあいみょんです。
おじさんたちが彼女の曲を聴くとどこか懐かしい印象を受ける一方、若者には斬新でクールに聴こえる。まさに正統派のアップデートと言えます。
ヒップホップでは、伝説のヒップホップパーティーである「B BOY PARK」で行われていた”MCバトル”のみを抜粋し、現代版として商品化したのが「フリースタイルダンジョン」でしょう。
また、Hi-STANDARDに代表される日本のメロディックパンクは04 Limited SazabysやSHANKへ、System of a Downのエッセンスはマキシマムザホルモンへと受け継がれています。
ファッションにおける流行の再来
1990年代後期〜2000年代前期の日本におけるファッショントレンドといえば、”裏原系”ストリートファッションなしには語れません。A BATHING APEやNEIGHBORHOODといったドメスティックブランド、またはSUPREME、STUSSYといったUNION直系の海外ストリートブランドに、ナイキ エアマックスをはじめとするハイテクスニーカーを合わせ、GREGORYなどアウトドアブランド製の大きめバックパックを持つのが定番でした。
2020年現在、エイプやネイバーフッドはいまだに根強い人気がありますが、シュプリームやナイキなどは当時以上の盛り上がりを見せ、アウトドアブランドのバックパックは、メッセンジャーライクなロールオンタイプの大きめバックパックとしてアップデートされています。そして、これら音楽やファッションが流行った最大の理由は、海外(特にアメリカ)の”ストリートスタイル”と密接にリンクしていたことがあげられます。
TW200を皮切りに始まった2000年前後のストリートスタイル
1990年代後期〜2000年代前期のファッションアイコンといえば、当時絶大な人気を誇った木村拓哉さんです。彼がTVドラマの中で着ていたストリート系のファッションブランドは瞬く間に売り切れ、また、乗っていたヤマハ TW200ベースのカスタムバイクにも人気が集中しました。そして、これをきっかけにバイク業界でも、一大ストリートスタイルブームが沸き起こりました。
ヤマハ TW200を皮切りに、ホンダ FTR223やスズキ グラストラッカーといったトラッカーモデル全般の人気が高まり、トラッカー=ストリートスタイルとして認知されました。
トラッカーカスタムは、ヤマハ SR400やカワサキ エストレヤ、ホンダ GB250クラブマンといったヘリテイジモデルにも飛び火し、目にするバイクのほとんどがストリートスタイルと化していたほどです。
また、このムーブメントの立役者としては、1997年に造形社より創刊された雑誌「カスタムバーニング(ex:アメリカン・カスタムバーニング)」や、2000年にニューズ出版より創刊され、後に三栄書房から発行されていた雑誌「ストリートバイカーズ」が挙げられます。毎号ストリートスナップページを楽しみにしていた方も多いことでしょう。
ストリートが感じられなくなった2020年現在のバイク事情
現在に翻ってみると、コンセプチュアルなEV化の流れは割愛し、2020年の各社ラインアップは、CBRやNinjaのようなフルカウルモデルと、MTやジクサーのようなネイキッドモデル、そして少々のアドベンチャーツアラーモデルに注力されており、ストリートスタイル再来の兆しはありません。さらに、ASEAN向け=小排気量、欧州/北米向け=大排気量に振り切っており、当時人気のあった中排気量モデルは手薄な印象です。
モーターショーでのラインアップをみても、やはりストリートの”ス”の字も感じられません。
2020年以降、ストリートスタイルの波が来るか⁉︎
ですが20年周期説になぞらえると、これから流行するバイクはストリートスタイル=トラッカーとなり、ストリートファッションに身を包んだユーザーがバイクカスタムで個性を出し、現代版ストリートスタイルが加速度的に再流行するという着地点に落ち着きます。
しかしながら、バイクの開発スピードは1台だけでも1〜2年程度で発売まで漕ぎ着けるほどではなく、計画から含めるとさらに長い年月を要します。また、先の通りEV化の波に、EURO4やEURO5といった規制のしがらみもあるため、ベースコンセプトそのまま”ストリートスタイル再来”とはいかないことでしょう。
現実的に考えれば、カワサキ Z900ベースのZ900RSや、スズキ GSX-S1000FベースのKATANAといったように、現行モデルをベースとしながら当時を彷彿させるパッケージをまとったモデルの登場が予想されます。
例えば、ホンダ レブル250ベースの「レブルFTR」や、スズキ ジクサー250ベースの「ジクサートラッカー」といった具合です。ですがこうしたモデルが登場したとしても、一概にブームが再燃するとは考えられません。なぜならただひとつ、大きな要因が欠けているからです。
ファッションアイコン無くしてバズならず
2000年代に流行したストリートスタイルは、ストリートファッションとバイクが絶妙に混ざり合いながら、木村拓哉さんというファッションアイコンによって強烈に印象づけられたことで確立しました。しかし2020年現在、趣味思考の多様化によって、ファッションアイコン不在が続いています。
つまり、ストリートスタイルというバズのトリガーは用意できても、発火させられるファッションアイコン(体現者)がいない状態なのです。
年間約328万台も売れていた1980年代の第二次バイクブームから早40年。2019年の年間販売台数は1/10へとシュリンクしました。モデル、タレント、芸人、YouTuber、インスタグラマー、どんなジャンルでも構いません。ストリートスタイルのファッションアイコンさえ現れてくれたら、「二輪車産業政策ロードマップ」で掲げた”2020年:国内販売100万台構想”も実現可能なのではないのでしょうか。