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クラウドファンディングでの成功を経て、だんだんと市販化のウワサも聞こえてくるようになってきたスマートヘルメット。今か今かと手元に届くのを待っている方も多いことでしょう。スマートヘルメット黎明期からその動向を追ってきた筆者としても、「やっと未来が来たか」と感無量の日々を送っています。
今回、幸運にも代表格ともいえる2つのスマートヘルメットを体験する機会を得ました。日本のスタートアップが開発した「CrossHelmet X1」とオーストラリアのスタートアップが開発した「Forcite Mk1」、それぞれ独自の思想を持って作られたスマートヘルメットを比較していきたいと思います。
ヘルメットとしての性能はいかに?
まずはベースとなるヘルメットの作りから見ていきましょう。どちらもスタートアップのメーカーが手掛けたとは思えないほどよくできています。
デザイン:スタンダードなForciteと未来感のあるCrossHelmet
ヘルメットはライダーの顔ともいえるので、やはりデザインは重要。比べてみると、かなり対照的です。
まず、CrossHelmetは後部が長めでSF感のあるレーシーなデザイン。これぞ未来のヘルメットといった印象です。サイドカバーのLEDライトもカッコいい。シールド部分が大きく取られているのも、開放感があってGOOD。
一方、Forciteはかなりスタンダードな形状。ですがカーボンでできた帽体はスポーティーですし、チンガードに内蔵されたカメラもスムーズに収まっていて、何ら違和感を感じさせません。
サイズ感:縦長のForciteと横長のCrossHelmet
こうして並べてみると比較用に置いた一番右のフルフェイスヘルメットと変わりません。若干大きく感じる部分があるとはいえ、意外と普通のサイズ感です。
とはいえ、これはスマートヘルメット。スピーカーやカメラ、マイクといった機器を内蔵しているわけで、首への負担を考えると重さが気になります。しかし、そこは市販化間近のスマートヘルメット。Forciteは1.55kg、CrossHelmetは1.98kgと2kg以下に抑えられています。一般的なフルフェイスが1.8kg程度なことを考えると、どちらのモデルもバッテリーや電子機器を詰め込んでいるとは思えないほどの軽さです。
ただ両者を持ち比べてみると、やはり帽体をカーボンで作っているForciteの方が軽く、CrossHelmetは若干ずっしり感じることがはっきりとわかります。数値上は約0.5kgの違いしかないのですが……。
かぶり心地:しっかりとしたForciteと開放感のあるCrossHelmet
気になるかぶり心地はというと、Forciteは海外製とはいえ、日本人に合わせた内装を採用しているだけあって、大手メーカー製のヘルメットと遜色ありません。並行輸入品だと頭の形が合わなくて、頭痛はおろか、吐き気をもよおすことさえ間々あります。
一方のCrossHelmetは額まわりで固定する海外製とも、頬まわりで支える日本製とも異なる作り。両耳とそれらを結んだ位置の後頭部で押さえるようになっているので、頬に圧迫感がないのです。広いシールドも相まって、フルフェイスなのにオープンフェイスのような開放感を感じられます。それなのに、あご紐を結べば上下にずれることも早々ないというスグレモノ。
ちなみにどちらもベンチレーションがしっかりと効いているので、暑い日でも走行中は快適です。
安全性:それぞれ独自の構造で安全を確保
ForciteはDOTやECEといった欧米の安全規格、CrossHelmetはDOTに加えSG規格にも通っており、どちらもヘルメットとしての安全性は折り紙つきです。とはいえ普通のヘルメットとは違い、電子機器内蔵型。そのあたりのいざというときの備えも必要です。特に外部衝撃でショートし、発火する可能性もあるリチウムイオンバッテリーは怖いところ。
そこでどちらも難燃性の高い固体リチウムバッテリーを採用することで、その危険性を回避。加えてForciteはバッテリーや電子機器をチンガードに、CrossHelmetは後頭部のスペースに集約することで衝撃対策を講じています。
スマート機能の実力をチェック!
どちらもヘルメットとしての機能はしっかりしているというのがわかったところで、ここからは肝心のスマート機能を比較してみます。
先にお伝えしておくと期待通りの部分は多いものの、まだ量産化前ということもあり、改善待ちの部分もいくつか見られました。
アプリ:便利機能充実なものの、今後の実装状況次第
アプリの機能性ではどちらもそれぞれに特長があります。まずForciteから。こちらの目玉ともいえるのはやはりドライブレコーダーとしても使える、録画機能でしょう。チンガード内臓のカメラから自分視点の映像が撮影可能です。
もっとも、今のところはデータの記録はMicro SDカードが必須。ゆくゆくはクラウド上へのアップや電源と連動して録画を開始する機能も実装されるようですが、まだ未対応といったところです。
一方のCrossHelmetはサウンドコントロール機能が優秀。低、中、高音をそれぞれ好みの強さで設定することができます。実際、試してみるとラジオ音源でもかなり変化がわかるくらいしっかり調整されていることがわかります。
さらにうまく調整すると風の音や排気音など、外部の音を抑えるノイズキャンセリング的な使い方もできるとのこと。筆者はうまい設定値を導き出すことができなかったので、アプリ側で予め使用シーンに合わせたプリセットが用意されていたらなぁ……と感じました。もっとも現在改善を図っているとのことなので、今後のアップデートが楽しみです。
加えて、後部カメラを使った録画機能もアリ。使用にはハードウェア拡張というオプションを購入する必要があるものの、魅力的な選択肢です。
ナビ:完成度はどちらももう一歩。視野の広さではCrossHelmetが優勢
スマートヘルメットの一番の便利機能ともいえるナビゲーション機能は、どちらも一長一短といったところです。まずForciteは、視界を狭めてしまいかねないという判断からヘッドアップディスプレイ(HUD)を採用せず、チンガード裏にシーケンシャルLEDバーを採用しています。この光の流れと音声で行き先をライダーに知らせてくれるだけでなく、オービスや警察車両の接近を警告してくれるという多機能ぶりです。
実際使ってみると視点を下に落とさずとも光の流れがわかるので、スマートフォンのナビをハンドルに固定して使っていたときよりもかなり気楽でした。
CrossHelmetの方はHUDを採用していますが、位置調整をしやすくしているためか意外なほど自然な視野となっています。むしろシールドが大きい分、広めに感じるほど。焦点を奥に合わせていれば周りの景色がよく見えますし、焦点を手前に合わせればHUDの表示が見えるようになります。
視点自体はまったく移動しなくて済むので、しっかりと交通状況を把握しつつナビに頼れます。
なにより後部カメラの映像をHUDが映してくれるので、カンタンに後ろの状況を確認可能。サイドミラー代わりに使えるくらいです。
こうしてみるとどちらも良い具合に仕上がっていますが、ちょっと難がある面も。Forciteの場合、まだローカライズが済んでおらず、行き先の検索がうまくできない状態です。使っている間はリルートにも対応するなど、かなり完成度は高いのですが……。
逆にCrossHelmetの方は、行き先の検索がラクラク。日本発ですのでもちろん日本語でOKですし、行き先のジャンルや特定の店名でも目的地設定することができます。これは一般的なマップアプリと遜色ない使い勝手。ただ、こちらはリルートにまだ対応しておらず一度間違ったらまた行き先をアプリ側で設定しなくてはなりません。
操作性:物理キーとタッチパネルで好みが分かれる
Forciteではナビや通話、カメラの録画開始など、各種機能へのアクセスを別体のスイッチボックスで行います。ベースが2種類ついているので、ハンドルバーやトップブリッジなど、好きな場所に設置できるというのもうれしいところ。ボタンの大きさもグローブをはめたままでも押しやすい大きさになっています。
一方のCrossHelmetはLEDが埋め込まれたサイドカバーをタッチするだけ。タップで電話の着信に応答したり、縦のスワイプでボリュームダウン、横のスワイプで再生している音楽の切り替えが行えます。圧力感知ではないのでスマートフォン対応のグローブが必須ですが、操作は直感的ですし、なにより充電がヘルメットひとつで済むというのも気軽です。
稼働時間:映像処理が無い分、Forciteに軍配
電子機器である以上、稼働時間も気になります。Forciteは2時間程度の使用で約80%残だったので、フル稼働で5~8時間ほど持続というカタログスペックと遜色ないくらいでした。
ところがCrossHelmetはちょっと心許ない結果に。ラジオを聞きつつ、ナビをずっと起動させたまま使ってみたところ、1時間程度の使用で残り約40%にまでバッテリーが減少。カメラに加えてHUDなど消費電力が多い分、若干スタミナが心配です。
本格発売までにどこまで安定化できるかが鍵
こうしてみると、ヘルメットとしての完成度はどちらも素晴らしいレベルにまで達しているものの、スマートヘルメットの機能としてはいま一歩頑張ってほしい部分があるという印象です。本格的な販売までにどこまで機能を実装し、安定化できるかが鍵となりそうです。
未来感のあるデザインと機能性を実現したCrossHelmetと、馴染みのあるデザインと十分な稼働時間を確保したForcite。あなたはどちらがお好みかな?