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走行中の転倒の場合、多くは責任転嫁したり自分なりに納得できる要因があって、成す術ないままに転んでしまったり、バイク以前に自らも負傷してしまうことが多いのに比べて……立ちゴケの場合は、もう少し慎重であったならとか、もう少し頑張れれば耐えられたんじゃないか?と、イジイジと後を引きがちではないでしょうか?
本人は無傷だったり、バイクのダメージも比較的軽く機能的には問題なしで済むケースも多いだけに、その後敢えて直しきらずに延々と痕跡が目に入ったりというのも原因かもしれません。
筆者も免許とったばかりで新車を買っての三日目、駐輪場で跨っている時に後ろから友人に声をかけられ、振り向きざまにそのままフルバンク駐車させたことがあって、いまだにお門違いな逆恨みをしている……かもしれません(笑)
今回の記事では、その立ちゴケについて少しばかり掘り下げてみましょう。
立ちゴケとは
シチュエーションとしてありがちなのは次のような場合ですね。
- Uターン等の小旋回中に、舵角に対して必要なだけアクセルを開けられずにエンスト
- Uターン等の小旋回中に、Fブレーキかけすぎてつんのめった反動
- 極低速を保たざるを得ない登坂やギャップ超えでエンスト
- 停止中に、跨ったまま不用意に大きく上体を動かした場合
- 足をつこうとした場所が低くなっていた場合(坂道Uターンでの谷側や不整路等)
- スタンドをかけわすれたまま降りようとした
これらの停止状態やそれに近いごく低速時に、何らかの原因で大きくバランスを崩しながら停止するとき、足をついてもきっちり踏ん張ることができず、自力で車重を支えきれなくなって、その場でバイクを転ばせてしまうことを立ちゴケと言っているかと思います。
基本的には慣れてない初心者が、恐る恐るで扱うあまりにやってしまいがちなことですが、ベテランでも跨ったまま荷物を漁るとか地面に落ちたものを拾おうとするとか、気を抜いて横着をしてしまったりとっさの場合には憂き目にあってしまうことになります。
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Bike No1 Zoom
新車で立ちごけ ぶちギレ
立ちゴケしてしまう要素
では実際に何をどうやらかすと立ちゴケしてしまうのか、簡単に物理の授業をしてみましょう。
重量
バランスを崩したときに車体の重さをライダーの力では「支えきれない」ことが最終的かつ直接の原因ですので、単純に重いバイクであればあるほど立ちゴケしやすくなるとはいえます。
が、実際にはもう少し色々な要素が絡み合っています。
重心とテコの原理
ライテクDVD等でよく見かけるデモンストレーションにもあるように、どんなに重いバイクであろうときっちり重心を捉えバランスが崩れない限りは、指一本でさえ二輪で自立するよう支えることができるものです。
が、その支えられる範囲はそのバイクのバンク方向での重心がどこにあるかで大きく変わってきます。
小学校で習ったテコの原理を思い出しながら上の図を見てみましょう。
アメリカンクルーザータイプ、一般的なネイキッドタイプ、SSタイプの静的状態でのロール方向の重心を概念的な図にしたものです。あくまで概念です(笑)
タイヤのプロファイル(断面形状)も込みで、接地点を支点・ロール方向重心を作用点・ハンドルの高さを力点として、使える力は一定とした場合に、どれが一番安定して支えられる範囲が大きいか、倒れやすいかは一目瞭然かと思います。
特にSSタイプの場合、車両横から見た場合を大袈裟に言えば、前かがみの腕を伸ばした状態で低いハンドルを支えていますので(左側2車種よりは)テコの原理が働きにくく、バランスを崩した時に足を踏ん張りながら力づくで支えることは難しくなっています。
シート高
たとえバイクの車重が重くとも、膝に余裕があるほど両足がべったり地面についていれば、脚の力をしっかり使ってかなりの重さを支えてコントロールすることができます。
逆に足つきに余裕のない場合は、べた足をつけて踏ん張れるほど傾けた時点で慣性も加わって支えきれなかったり、間に合わなかったりします。
このように300kg超級の本格大型ツアラーやクルーザーでも、車両重心の低さ、支え(ハンドル)の高さ、足つきの良さ等によるテコの働き次第で意外と楽に支えることができて、むしろ立ちゴケはしにくいこともあります。
多くの場合は車格に比せば軽いとはいえ、重心の高さ・支えの低さ・足つきの悪さと三拍子揃ったSSは、乗り手の体格や力次第では、対立ちゴケに関してのみ言えばネガばかりとなってしまいます。
とはいえ、前世紀初頭に戦闘機が充分なパワーを獲得していく過程で、複葉>単葉高翼>単葉低翼と進化していったように、高荷重下で一瞬に動きを切り替えられる運動性を得るためには「安定していないこと」が重要で、現在に至るまで戦闘機設計の基本だったりもします。
ごく低速での取り回しで難儀することは、陸上の戦闘機ならではの走りを楽しむための通過儀礼のようなものでしょう。
まとめ
とはいえ、仲間内でのツーリング先で当時YZF-R1(4C8、200kg)に乗っていた筆者が、「乗ってみろ」と言われてVMAX(RP22J、310kg)に乗せられたとき。
足はべったりつくとはいえ、尋常じゃない脚応えにこれはアカンわと駐車場グルっと回っただけでそそくさと返却したことは付け加えておきます。
やっぱり重いもんは重い。サムネイル画像の8200ccのビッグブロックV8を搭載したBossHoss502は600kgあるそうです。