この記事の目次
レーサーやスーパースポーツと呼ばれるバイクは、1分1秒を競うサーキットでも十分な「走り」が楽しめるよう高性能なパーツが採用されています。そのうちの代表格とも言えるのが、フロントフォークの一種「倒立フォーク」です。どのような経緯で生み出されて普及したのでしょうか?
テレスコピックフォーク
まずは、一般的なフロントフォークの分類「テレスコピックフォーク」からおさらいしていきます。
テレスコピックフォークの仕組み
テレスコピックフォークとは、ざっくり端折って言えば、太いパイプの中に一回り細いパイプを組み込んで伸縮できる構造としたものの中に、バネ・減衰機構・オイル等を収めた緩衝装置です。
これによりフロントアクスルを支持して車輪を支えながら、路面の凹凸によるショックや振動を吸収していなすだけでなく、車両の姿勢変化に応じて伸び縮みすることで路面を捉え続けることにより、荷重バランス / (後輪での)トラクションといった面でも多くの役割を担っています。
倒立? 正立?
そんなテレスコピックフォークには二種類の方式があります。それが正立式と倒立式。
その違いを説明するには上記の仕組みのところで、「太いパイプの中に一回り細いパイプ」と書いたところをもう少し詳しく紹介しなければなりません。
太いパイプ=アウターチューブ、細いパイプ=インナーチューブと呼ばれています。
このアウターチューブを下側にして、インナーチューブを上にしてたものが正立式です。
逆に、インナーチューブを下側にし、アウターチューブを上にしたものが倒立式です。
フォークを倒立式にするメリット
実はかつてはスポーツバイクでも正立式が一般的でした。ではなぜ現在では倒立式に置き換わっていったのでしょうか?
剛性アップ
バイクのフロントサスペンションは、フォーク2本をアクスルシャフト・アンダーブラケット・トップブリッジで連結することにより構成されています。
このとき同じサイズのフォークなら、より太いアウターチューブをブラケットにクランプできる倒立式のほうが捻じれに対しての剛性が高くなるため、車体に対してフロントホイールが正確に保持され続けるとともに、路面からのフィードバックや操作に対するレスポンスもクイックでシャープになります。
組み上げただけで、正立式でフォークの支持剛性を高めるためのスタビライザーを装備したのと同じ状態になるようなものですね。
ストロークアップ
実のところ、倒立式がスタンダードになっていったのは、モトクロス競技からだったりします。正立式でストロークを長くとろうとすると、まずもってアンダーブラケット高での制限がありますが、それを避けようとするとストローク長さ+クランプ長でひょろ長くなってしまうインナーチューブの重量増と剛性低下、それを収めるための長いアウターチューブの重量増、結果的に必要以上に高くなる車高(シート高)といった問題が発生します。
ここを倒立式とすることでブラケットとのクリアランスの問題を解決できるだけでなく、重量と剛性の面でのアドバンテージも生まれ、操縦性もクイックになることから、ロードレースにも伝播していったわけです。
オフロードを走るのに、シリンダー部に泥・砂は平気なんだろうかとも思ったりもしますが、当初はレース毎にOHが当たり前の競技車両だけ?だったのが、シール素材の進化による堅牢性と耐久性のアップ等で、(寿命は比較的短いにしても)市販車にも積極採用されるようになったのではないでしょうか。
まとめ
かといって正立式が時代遅れの過去の遺物かといえば、決してそんなことはありません。
それほどキビキビとしたレスポンスを求められないバイクであれば、適度の緩さや鈍さといったものはむしろ優しい快適性に繋がります。
倒立式のイニシャルコストは一般化して大量生産されることにより下がってはいるとはいえ、まだまだ高価なものですし、メンテナンスにおいては専用の道具とひと手間が必要となるため、工賃も高かったりサンデーメカニックにはひとつの関門となったりもしますが、正立式の場合はフォークブーツを併用してのメンテサイクルの引き延ばし等を図れたりもします。
ちなみに(そもそもそういう状態になるまで放置するのがアカンですが)ツーリング中にシールが劣化してフォークオイルが漏れ、ダイレクトにブレーキローターにかかってしまった倒立フォークの車両を見たことがあります(怖)
いろんなサスペンション形式はありますが、まだ当面の間はテレスコピックフォークがスタンダードのままでしょうし、この先も倒立=高性能であることに間違いはありません。でも用途や考え方によっては正立式のほうが優れている場合もあることはお忘れなく!
参考ーflickr