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平成の世も残り少なくなってきましたね。次の元号は令和でしたっけ?元号が変わったところで貧しい私の暮らしは一向に変わる予感もないのですが……それでも人並みに、平成の世を振り返ってみたくもなります。
そこで今回から数回に渡って、【平成の名車を振り返る】という感じで、筆者の思い付くままに、ササっと、平成に生れた優れたモーターサイクルを紹介して行きたいと思います。
平成の名車と言えばカワサキ「ゼファー」だ!
平成元年となる1989年に生れたゼファー。レーサーレプリカ・ブームの真っ最中に登場した本モデルは、空冷4気筒2バルブエンジンを搭載したネイキッド・モデル。なんの変哲もないように見えるこの「ゼファー」が、時代を変えてしまうインパクトを持っていようとは……恐らくきっとカワサキでさえ、思っていなかったのではないでしょうか?
時代の中心にあったレーサーレプリカ。そ中心を占めていたのは、総排気量250ccでもリミッターを解除すれば70馬力オーバー、レーサー然としたカウルを装備し、セパレートハンドル&バックステップが当たり前だったワケですが……「そんなバイクで街を走って楽しいですか?もっと気楽に、カッコよく乗りましょうよ!」というのが「ゼファー」からの提案でした。
さて、ここに掲載しているのは、その貴重な1989年モデルの「ゼファー」。本企画の趣旨に賛同したカワサキ広報部の方が、快く写真一式をご提供くださいました。ありがとうございます!
「ゼファー」の魅力は、優れたパッケージングにあります。当時既に存在していた、カワサキ「Z1」に対する若者の憧れ。それをレプリカとしてではなく、車両全体の雰囲気として表現しています。冷却フィンの美しい空冷4気筒エンジン(「GPZ400F」をベースとする)と、それを抱えるオーソドックスなスチールフレーム。リアは別体ツインショック&カスタムバイクっぽく見えるアルミ製スイングアームで構成しているのもお見事!
余談ですが、この「ゼファー」のスイングアームをカワサキ製の他モデルに搭載するカスタムが流行していましたね!同じく、オイルクーラーが標準装備されていたのも、カスタム車っぽい雰囲気を醸し出していました。
ハンドルバー・ステップ、シートの位置も適切で、アップライトなライディングポジションで街中を颯爽と走ることが出来ました。4気筒エンジン搭載車のお手本のようなモデルですから、カスタムベースとして愛されたことについては、今ここで言及するまでもないことでしょう。
改めて記載しておくべきは、最高出力が僅か46馬力でしかなかったこと。当時は400ccモデルは59馬力で規制されていました。「ゼファー」の前のモデルである「GPZ400F」でも54馬力出ていた。それをあえて、ググっと出力を落としていたのです。「最高出力で競争すんなよ……」という強いメッセージが、そこに込められたいたのです。
後に登場して人気モデルとなったヤマハ「XJR400」開発者のインタビューでも「ゼファーで本質を突かれたから、XJR400は別の方向に仕上げた」という趣旨の発言が記憶に残っています。
「ゼファー」1989年モデルのカラーラインアップは、最初に掲載した”キャインディアトランティックブルー”と、コチラの”キャンディカーディナルレッド”。
そして忘れてはいけないのが、お値段がリーズナブルであったこと。「ゼファー」は当時、52万9,000円(税別)でしたが、例えば後にライバルとなるホンダ「CB400 Super Four」(1992年モデル)は58万9,000円(税別)。最後発となったヤマハ「XJR400」(1993年モデル)は57万9,000円(税別)でした。
最後に、貴重な機会ですので、スペック表も載せておきまっす!
カワサキ「ゼファー」1989年モデルのスペック
- 全長×全幅×全高:2,100mm×750mm×1,095mm(1,235mm)
- ホイールベース:1,440mm
- シート高:770mm
- 車両重量:177kg(乾燥)
- エンジン種類 / 弁方式:空冷4ストローク直列4気筒 / DOHC2バルブ
- 総排気量:399cc
- 内径×行程:55.0×42.0mm
- 圧縮比:9.7
- 最高出力:46 ps / 11,000rpm
- 最大トルク:3.1 kg・m / 10,500rpm
「ゼファー」の後継モデル「ゼファーχ」!
そんなスッピンが美しい「ゼファー」ですが、ヤマハらしいデザイン性とハンドリング、それに官能性をも意識しつつ高出力を発揮するエンジンが自慢の「XJR400」、非の打ち所がない優等生「CB400 Super Four」、スズキ「バンディッド400」なんかと激しい攻防を繰り広げた結果……1996年、あえなく高出力化の方向でモデルチェンジが行われました。そうして登場したのが「ゼファーχ」。
ネット時代になった今では変換しても出て来にくい”χ”なんて文字は使わないですね。カイ、と読みます。
ここに掲載しているのは、貴重な「ゼファーχ」の最後を飾った2008年Final Editionのお写真でございます。
「ゼファーχ」のエンジンは、総排気量399cc、空冷4気筒DOHCですが、4バルブ化されていました。また、外見上は変わりないように見えますが、実は各部がバージョンアップされていました。
「ゼファー」人気は凄まじく、兄弟モデル「ゼファー750」も登場!
1989年に「ゼファー」が登場した翌年となる1990年には、「ゼファー750」が登場しました。
コチラも「ゼファー」同様、「GPZ750F」のエンジンをベースとした空冷750cc直列4気筒DOHCエンジンを搭載。パッケージそのものも「ゼファー」を踏襲しており、最高出力や数字上の速さを追い求めないモデルでした。
最後に登場したのは「ゼファー1100」だった!
1990年には、国内の自主規制(750cc制限)が撤廃されまして、より大きな排気量のモデルが逆輸入車ではなく日本仕様として販売されることになりました。
そんな背景もあって登場したのが「ゼファー1100」。1992年のことでした。
コチラに掲載したのは、貴重な1992年モデルの「ゼファー1100」。水冷をあえて空冷化したというコダワリの直列4気筒エンジンはツインプラグ仕様でした。
カワサキのお約束ともいえる”火の玉カラー”採用モデルなどを追加しつつ、2006年モデルをもって生産が終了しました。
「ゼファー」が「W650」や「Z900RS」を生んだとは言えないか?
ということで今回は【平成の名車を振り返る】と題しまして、カワサキ「ゼファー」と、その後継車・兄弟モデルなどをご紹介してみました。異論はあるかも知れませんが、絶対性能や数字を追い掛けない、スタンダードなモデルという新ジャンルを築いたのは「ゼファー」なのではないか、というのが筆者の個人的見解です。
当時は「カウルがないから”ネイキッド”」なんていう安直な理解がされていたワケで、ネイキッドとしては「CB-1」というモデルが既に存在していたのです。「ゼファー」の凄さは、ただカウルを外しただけでは無く、見て楽しい、気楽に乗れて楽しい、スタンダードなモーターサイクルという新ジャンルを築いた点にこそあります。
「ゼファー」の成功があったからこそ、後にカワサキは「Wシリーズ」や「Z900RS」といったモデルをリリースできたのではないでしょうか?筆者の理解では、「Wシリーズ」や「Z900RS」は「ゼファー」の後継シリーズなのです。もちろんカワサキには「Ninja」シリーズで変わらず速さを追求して頂きたいですし、速いネイキッドは「Zシリーズ」があります。
それでもやはり「ゼファー」が築いた”スタンダード”という新ジャンルを、今後も着々と追求して欲しいと思う筆者なのです。