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いつの時代においても、どんなジャンルにおいても不幸にして不遇な存在となってしまうことがあります。当然、バイクの世界においてもしかりです。リリースする時期が早過ぎたのか、当時のライバル車種の問題なのか、デザインや性能、価格などの問題なのか。様々な要因が関係していますが、今回はそんな不遇の名車(迷車)にスポットライトを当ててみましょう。
※批判するわけではなく、皆さんの記憶から風化させないための企画ですからね!
250ccの本格派ツアラー
今回ご紹介する不遇の名車(迷車)は、コチラ。スズキ「アクロス」です!
1990年に発売された250ccのツアラータイプで、同社「GSX-R250」の派生車種として登場。車体デザインはフルカウルのツアラータイプなので、メーカー側も「アーバンスポーツツアラー」という位置付けをしています。
「GSX-R250」の派生車種なので、パワーユニットは「GSX-R250」と同じ、水冷4サイクルDOHC4バルブ4気筒250ccエンジンを搭載。規制上限の45馬力を発揮します。そう、結構高性能なのです。
アクロスのエンジン特性は、中低速をメインにセッティング変更され、アップライトで足つきの良いポジション、エンジンルームからの熱を遮断するフルカウルといった具合に、バランスの取れた優秀な一台です。
メットインに驚いた方も多いはず…
この「アクロス」の特徴は、GSX-R250譲りの高性能エンジンだけではなく、ガソリンタンク部分を、大胆にもメットインスペースにしてしまったことです。
容量は十分で、フルフェイスも余裕で収納可能となっています。今でこそ、電動バイクなどではありがちですが、当時のスポーツバイクで、このスペースにメットインを持ってくるという発想はあまりにも斬新でした。
では、本来のガソリンタンクはどこにいったのかというと…シート下に配置されていました。タンデムシートの後ろが開くと給油口が顔を出すというシステムです。
あらゆる用途に対応可能な一台
スポーツバイクでありながら、収納スペースを設けることに成功した「アクロス」。中低速用にセッティングを変更されたエンジンは、買い物、街乗り、ツーリングと、あらゆる用途に対応可能な実に優れたモデルとなりました。
しかし日の目を浴びることは無かった…
しかし、そんな万能モデルにも思えた「アクロス」でしたが、商業的な成功には至りませんでした。
理由は諸説あり、乾燥重量が159kgと250ccモデルとしては重かったとか、ガソリンタンクの容量が12Lしかなかったとか、燃費も悪かったので航続距離も短かったとか、車重の重さ故に運動性能が発揮できなかったとか、諸々あるようですが、そういった負の理由が重なったからでしょうか。当時のライダーにはあまり受け入れられませんでした。
それでも「アクロス」は一部のユーザーからは一定の評価を得ていたようで、生産は1998年まで続きましたが、それ以降スズキのラインアップに「アクロス」の名は登場していません。
ACROSS …日本語に訳すと 「~を横断して」という意味となります。日常(シティーコミューター)と非日常(ツーリング)の世界を自由に行き来するマシンということで命名されたそうです。確かに、そのコンセプトはネーミング通りでしたが、現在、迷車扱いされているのが残念です。
しかし、そのコンセプトは電動バイクが登場するようになった現在、見事に受け継がれています。ダミータンクにメットインという要素は、現在ではあまり珍しくなくなりつつあります。
「アクロス」は時代を先取りし過ぎたあまり、不遇なバイクとなり果ててしまいましたが、その先進性は、現在のスズキの系譜に脈々と受け継がれています。それでは最後に「アクロス」の雄姿を動画でご覧ください。
スズキ「アクロス」のスペック
- エンジン:水冷4サイクルDOHC4バルブ4気筒
- 総排気量:248cc
- 最高出力:40ps / 13,500rpm
- 最大トルク:2.7kg・m / 10,000rpm
- 変速機:常時噛合式6段リターン
- 燃料供給方式:キャブレター
- 始動方式:セルフ式
- ブレーキ:前後油圧式ディスク
- 全長×全幅×全高:2,020×695×1,135mm
- 乾燥重量:159kg
- 燃料タンク容量:12L
- 中古市場相場:17万円〜25万円前後