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BMW RnineTといえば、カフェレーサーやスクランブラーなど6つものスタイルと、それぞれに付随する豊富なオプションがラインアップされている、いわばメーカー推奨のカスタムベースといってもいいモデル。
市井のカスタムビルダーにとっても「美味しい素材」なのか、当メディアにおいても、それぞれのスタイルをさらに煮詰めた志向のカスタム例を過去多数取り上げています。
スイスにあるVTR Customsというビルダーの、RnineTをベースとした興味深いトラッカーの画像と、低予算を命題とした製作に至るエピソードを見つけましたので紹介します。
BMWディーラー直轄のカスタムショップ
VTRカスタム(以下VTR)は、スイスのBMWディーラーのひとつVTRモトラッド社のカスタム部門です。過去の代表作は、BMW・R1200をベースに第二次大戦期のイギリスの戦闘機をモチーフにした外装に換装した「SpitFire」。まるで弾丸かロケットのような見た目で迫力満点です。
そのカスタム部門のボスであるDani Weidmann氏は、コンセプトモデルとしてBMWが発表した9Trackerに刺激を受け、すぐにでもトラッカーモデルを市販追加するようBMW本社に掛け合ったものの全く反応はなく、そこで自社でコンバージョンキットを開発することを思い立ちました。
とはいうものの、キットとして一定数販売する場合の生産設備や投資とその回収計画を仔細に検討した結果、とりあえず既製品を織り交ぜた自社ワンオフによる低予算で製作してみた・・・・・・というマシンが本記事で紹介するフラットトラッカー、「FlatNine」です。
アーバンG/SをベースにしたVTR FlatNine
ベースとなっているのはRnineTアーバンG/Sで、タンクとタイヤ・ホイールは低予算を実現するためにリペイントのみでそのまま使用しています。リアサブフレームとリアカウル、およびプロジェクターヘッドライトが組み込まれたゼッケンプレート等がVTRによってワンオフ製作された部分です。
個別に紹介されていなかったため詳細は不明ですが、プロジェクターヘッドライトと同様に、公道走行に必要なウィンカーやストップランプといった保安部品はテールカウル下をはじめとした目立たない場所に設置。実用上問題ない範囲でスッキリさせています。
シートはVTRと協業関係の深いYves Knobel氏によるもので、前後長めに変更されています。着座位置を自由に変えやすく、後輪への荷重コントロールで有利なトラッカーの特長とも言えるシートです。カスタム塗装の色を拾ったストライプやステッチ、素材感の美しいハトメなど、ワンオフならではのワンポイントも忘れられていません。
吸排気系はもちろん強化。純正のエアボックスを廃して、吸気効率のいいエアフィルターを左右シリンダーヘッドに直接ボルトオン。排気系にはBMWのカスタムパーツとして有名なUnitGarageのチタンアップマフラーを装着することで、効率を上げるとともに、見た目の迫力を増しています。
その他、BMW純正オプションのヘッドカバー、Maguraのハンドル、Monzaのガスキャップ、Rizomaのステップキット、Wilbersのローダウンキット等の名の知れた他社製カスタムパーツが活用されています。
これらは「とりあえずすぐにでも」パッケージ化する都合上採用されたものですが、後々にトラッカーコンバージョンのためのフルセットや一部を、全てを自社制作のコストとリスクをかけずに比較的安価に市販キット化するための伏線なのかもしれません。
カッコいいは正義
以前の記事で、「カスタマイズは自由な発想あってこそのものながら、ディテールの由来や源流を知っていてこそ、カスタムのコンセプトにも深みが出る」といった旨を書いたことがあります。
正直なところ、このFlatNineの写真を最初に見たときに、「あくまでスタイルとはいえ、(超絶バンクが必要な)トラッカーに(横幅で不利な)フラットツインはないだろう?」「アップマフラーが完全に伊達でしかないやん」と思ったのは確かです。
もしかすると、VTRの人はフラット繋がりの「フラットツインのフラットトラックレーサー」という駄洒落をやってみたかったのかもしれないともちょっとだけ思いました(笑)。
しかし、いわゆるストリートトラッカーとして割り切ってのことであろうし、なんだかんだいってもやっぱり最終的に「カッコいい」は正義なのであります。