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ヨーロッパやアメリカで開催されているカスタムバイクチャンピオンシップAMDで優勝経験を持つロシアのZILLERS GARAGEは常に挑戦的なバイクを送り出しています。そんな彼らの最新作「Vincent(ヴィンセント)」は美しいとしか言いようのない磨き上げられたボディワークと、ロー&ロングなクルーザースタイルが合わさり、どこか近未来感を感じずにはいられない一台です。
伝説のメーカー「ヴィンセント」
「ヴィンセント」と聞くと、ファイナルファンタジー7のキャラクターや、KISSの二代目リードギタリストを思い浮かべる方も多いかもしれませんが、もちろんここではそれらは不正解。
ヴィンセントは20世紀前半に存在したイギリスの伝説的バイクメーカーです。トライアンフやホンダが台頭する前は、地球最速のバイクの代名詞的な存在でした。中でもその名を轟かせたのが、当時としては驚異的な、最高時速200km弱というスピードを出す「ブラックシャドウ」シリーズです。未亡人製造機と呼ばれていたことからも、その驚異的なスピードに魅せられるバイク乗りが後を絶たなかったことが容易に想像できます。
そんなブラックシャドウをさらにハイスペックにしたのが、「ブラックライトニング」。最高時速は240kmと現行のミドルクラスのスポーツバイクに引けを取らない速さですね。現在でも世界最速を競う舞台として知られるアメリカのボンネビル・ソルトフラッツで1948年にその栄冠に輝いたのもこのバイクです。
このブラックライトニングのレプリカエンジンこそ、Vincentの心臓部。もちろんそのまま使うのではなく、より性能を発揮できるよう標準のデロルトキャブレターからBMWの大口径なものに、インマニを鍛造アルミニウム製に交換しています。設計が古いとはいえ、1200ccにボアアップして再生産された新品のエンジンなので、信頼性も十分です。
エンジンボディの黒地を残しつつ、カバーやインマニなどを磨き上げ、燃料ホースやオイルのホースはステンレス鋼製にリプレイスされており、シルバーの美しさが引き立っています。
繊細なボディワークと大胆な機構
フレームを含め、エンジン以外の部分はほぼワンオフです。しなやかな曲線を描くエギゾーストから制作された超ショートマフラーはステンレス鋼製。消音性は皆無もいいところなので、勇ましすぎるエキゾーストノートが聞こえてきそうです。
繊細なボディワークからは想像できない爆音というのもまたこのバイクのキャラクターを際立てています。
フロントフォークはステアリングがリンクを介して接続されるデュオレバー方式。BMWのKシリーズやホンダのゴールドウイングなどに採用されているもので、路面からの不快な振動をライダーが感じなくて済むという利点があります。
ホイールも量産品ではとてもできないセットアップ。CNC加工されたスポークを20個取り付けるだけでなく、ブレーキディスクとキャリパーが各ホイールの内部に収められています。
こうなると、気になってくるのがブレーキホースの取り回し。普通の取り回しにするとホイールの回転に巻き込まれてしまいそうですが、そこはチャンピオンビルダー。ホイールの中心から中空のハブを通すことでうまく処理しています。
ハンドルバーも独特です。ステムから湾曲した左右のバーを接続する形で、一見するとビーチクルーザーのようにも見えます。レバーに至っては鉤爪のよう。少し操作性に疑問はでますが、カッコいいことは間違いありません。
見れば見るほど規格外なZILLERS GARAGEの「Vincent」。普段使いには豪華すぎるけど、こうして眺めているだけで楽しめるバイクも一生に一台くらいほしくなってきますね。