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昨今においては安全意識の向上にくわえ、新素材の進化と普及に伴う低価格化もあり、乗車時には夏でもきちんと上着を着こんでいることが普通になってきました。
革に迫る耐擦過性能と、簡易とはいえ要所にプロテクターを内蔵しながらも、風が通って熱の籠らないフルメッシュのライジャケと、汗を速乾蒸散させて気化熱を奪い涼感を得るという高機能インナー / アンダーウェアがその立役者といったところで、真夏の炎天下でもある程度の走行風があれば、快適とまでは言えずとも耐えきれないレベルにまでなることは稀になりました。
問題は、街中で4輪に囲まれた状態でごく低速となる局面や、信号待ち等での停止時です。
直射日光とアスファルトからの照り返しと自車から立ち上り吹き付けられる排熱だけでなく、まわりの4輪がエンジン冷却にくわえて車内を冷やすぶん余計に吹き出す熱風と、窓・車体からの放射熱と反射日光…… 対策なしに嵌ってしまうと、もうどうしようもありません。
そこで走行時にくわえて低速時停車時にもある程度の効果を見込めるものはないかと、メッシュの上着+高機能インナーに付加して効果が見込めそうな、夏用の装備を考察してみました。
夏用装備いろいろ
いずれも商品としてはたいして目新しくもないのですが……
電動ファンによる空冷式
- 上着の下に着こんだ場合にきちんと風が通るかどうか?は上着のフィッティングに気をつかっているような人ほどデメリットに
- (長袖のものを)上着として着た場合には、体に密着して冷却効果を阻害してしまうインナータイプのプロテクターが必要だったり、究極の着ぶくれになってカッコ悪い(笑)うえに、生地やデザインによっては走行風への耐性にも疑問
- 電源が必要であり、車両から引く場合もバッテリーを使う場合もメリットとデメリットが表裏一体
- 比較的高価
手持ちの上着に付加して使用するものについては比較的安価なものから高価なものまでありますが……
- 電源の問題はファン内蔵タイプと同様
- もともと風通しのよい上着に取り付けてしまうと、好ましい空気の流れができず効果は激減
吹き込み空冷式の強みは走行風の有無に影響されないことではありますが、逆にいえば走行風を利用できなくなるともいえます。
水に浸して使う、蒸散気化熱式
- 高価なものほど抑えられてはいるものの、濡れた服を着ているような感触と、接触する他の衣類に水が滲みてくることが
- 極度に湿度の高い環境では、単に風通しの悪いベストを重ね着することになってしまい逆効果になる場合も
冷媒取り付け式
最も安価で効果の高いものではありますが、冷媒が温度飽和すると効果も終了となることと、凍るほどに冷たいものを直着しての調温は難しいところです。
冷媒循環式
着衣の内側に冷媒(水や空気)が循環するという、昔から4輪の耐久レース等では氷を入れたクーラーボックスとともに使われていたもので、効果の高さを見込むこともできますが・・・
- かなり高価
- 冷媒が温度飽和すると効果も終了
- 冷媒を収めるスペースが必要で重い、かつバイクで対応できる容量のものはそれだけ持続時間が短い
- 空気を冷媒として使用するものはコンプレッサー、液体を循環させるにはポンプ、といった電源とスペースが必要
いずれも一長一短があり、あれこれ書き連ねていくほどに、二輪界隈ではそれほど普及しない理由が分かった気がします。
ドライクール(水注入による蒸散気化熱式)
そんな中で筆者が選択したのは、価格・性能とも中庸ではあるものの「ドライクール」を謳い、水を注入してその蒸散により気化熱を奪って冷却しながらも、外部への水の滲出がないというものです。
能書きとしては「わずか500mlの水を注水すると、すぐに冷却効果を発揮。5℃~15℃ベストの温度が下がります。効果の持続期間は8時間~72時間。 」と、効能持続時間そのものが長いうえに、充電 / 給電や氷の調達ほどは手間やコストがかからないのが魅力です。
よく見かけるMACNAとINUTEQともにオランダの会社で、INUTEQがパーソナルクーリング製品専業で、MACNAがライディングアパレルの会社であることと各部の作りやパーツの相似から、INUTEQがそれらのOEM元ではないかと思われます。(製造は台湾)
上の画像リンクはMACNA現行品の「エボ」ですが、筆者の持っているのは旧世代MACNAとほぼ同等品のINUTEQをミドリ安全が扱っているもので、知り合いの警備会社で余剰になっていたものを格安で提供していただきました。
MACNAの代理店であるJAPEXさんでのテスト模様がこちら。
懸念としては首に巻く冷却ベルトでよくあるように、体温の上昇や吸収に対して容量が足りず放熱・蒸散冷却効果が飽和して、ぬる~い状態になってしまうかも?というところでしょうか。
INUTEQドライクールベストの使用レビュー
エアコンでキンキンに冷やした部屋に置いてあった、シルクサテンのシーツを羽織ったようなサラっとひんやりした感触が持続するような使用感です。
気化熱利用ということは、ある程度は風が当たってこそであろうとも思われましたが…… 信号待ちでの停止中も上記のようなひんやり感は持続していて、どうやら体温を吸収することにより蒸散が促進され気化熱として放出したぶん体温を奪うという、好ましいスパイラルが起きているようで、単純にメッシュ上着+高機能速乾冷感インナーだけで風が直接当たる面積が多いほうが効果的じゃないか?とも考えていましたが、そうでもないようです。
画像では下にもう一枚綿のTシャツを着ていますが…… アンダーに直接重ねてベストを着用した上にハニカムメッシュのTシャツを着る等すれば、さらに効果は上がると思われます。(出先の公共の場でピタピタアンダーいっちょうの我儘ボディを晒してウロつくのはやめましょう!)
各自のサイズに合わせてサイドのゴムベルトを詰める等で、より体に密着させて吸熱させるのも効果的かと思われます。
あと、よりバイク向けに考慮されている?MACNAでは胸側に移設したり背中にジップロックタイプでと一工夫されているのですが…… INUTEQは上着を脱いだり着たりする際に、背中の注入口のフタが上着の内張に引っかかって開いてしまうことがあったり(もっともそれで水がジャバジャバ出てきたりするほどではありませんが)、バックパックを使用する場合に異物感があったりはします。
最後に
商品単体としては満足いく結果とはいえ、じゃあ定価で買うか?といわれるとなんとも微妙なところではあります。
いずれも熱中症にまでなるのを防ぐというところでは意味と効果があるのでしょうが、より快適にとまでいうと決定打といえるようなものはなかなかありませんなぁ。
緊急追記!
この記事を書いている途中ではすっかり失念していたのですが、今年3月の東京モーターサイクルショー2019に参考出品されていた「HYOD Cool-FAN & Heat PANEL VEST MCI001」と「HYOD Cool-FAN VEST MCI002」が8月から発売されます!
基本的には長所も短所も効能も前項で紹介した吹込み空冷式と同様ということになりますが、作業着ベースのものを転用するのと比べて、より二輪乗車での使用に最適化されていて、併用できる上着の自由度が高い上(ファンに裾が被る場合のカバー)にデフォルトで二系統電源対応、服の中をゴソゴソとスイッチを盲牌しなくて済むワイヤレススイッチ、しかもMCI001ではカーボンヒーターパネルを内蔵して冬季装備としても使用できるようになっています。
問題は…… 吹込み式に共通のフルメッシュの上着との併用では効果が薄くなる / 走行風を利用できないことと、現在のところお試しで手軽に購入といえるレベルではない価格でしょうか。(MCI001:\59,900、MCI002:\49,900)
ただ、購入した人からの評判が良く、これから先もっと普及して価格が下がることがあれば、ベストとしてだけではなくジャケットにコンパクトかつスタイリッシュに内蔵しての標準装備で出てくる可能性も高く、これからも注目してみたいアイテムですね!