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ぱっと見はドゥカティのパニガーレV4風の流麗なフォルムを持つイタリア製スーパースポーツに、ピカピカな鏡面仕上げのボディ加工が施されたカスタムマシン。
でも、実はこのバイク、1930年代にハーレーダビッドソンが製造した名エンジン「ナックルヘッド」を搭載、フレームやカウリング、燃料タンクなども全てワンオフ製作した完全オリジナルのバイクなのです。
最新スポーツバイクのスタイルに、古いVツインエンジンがなぜか見事にマッチしている、意外性100%の「KNTT1200」を紹介しましょう。
ハーレー初のOHVエンジン
アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするカスタムバイクショップ「HAZAN MOTORWORKS」が製作したのがこのバイクです。カスタムの詳細を紹介する前に、まずハーレーダビッドソンのナックルヘッドというエンジンについて簡単に解説しましょう。
ナックルヘッドは、1936年に登場したハーレー初のOHV(オーバーヘッドバルブ)機構を採用したVツインエンジンです。
登場した背景は、アメリカ国内の「インディアン」やイギリスの「BSA」といったライバルメーカーが、当時の最先端技術だったOHVを採用したエンジンを搭載したバイクをリリースし、一躍話題に。危機感を覚えたハーレーが、それらに対抗するために開発したのが通称「ナックルヘッド」と呼ばれるエンジンです。
名前の由来は、クランクケース右側にある吸排気バルブを制御するロッカーアームのカバーが握り拳(英語でナックル)に似ていたことから。ロッカーアームを動かす4本のプッシュロッドの造詣が美しく、今でもコアなファンが多い伝説のエンジンなのです。
製作したHAZAN MOTORWORKSでは、このエンジンを使い、「1960年代後半から1970年代にロードレースで活躍したKRTTやXRTTといったハーレーのレーシングマシンを作る」といったコンセプトでKNTT1200を製作。しかも、古いエンジンを使ったビンテージレーサーではなく、古さを一切感じさせない最新スタイルのスポーツバイクに仕上げたのです。
エンジンのパーツも変更
ナックルヘッドには、排気量が988ccの仕様もありますが、このバイクに使われたものはより排気量が大きい1200cc仕様です。それでも、最高出力は50ps程度と控えめ。当時としては最新で高性能だったにせよ、今のスーパースポーツであれば200ps以上を誇るモデルも多いことを考えると、そのスタイルと性能のギャップも意外性といえるでしょう。
オリジナルのクロモリ製フレームに搭載するエンジンは、スーパースポーツ的なコンパクトなボディに収めるために、ロッカーアームの角度などが変更されています。これは、元々搭載スペースに余裕があるアメリカンバイクに搭載されていたエンジンを、スーパースポーツ的なコンパクトさを持つ一方で、搭載スペースが狭い車体へ上手く収めるための工夫です。
また、キャブレターは高性能なケイヒン製CRを2気筒のエンジンそれぞれに装着したツインキャブ仕様に変更。
2本のステンレス製エキゾーストパイプ(これもワンオフ)が車体右側からシートカウル内のサイレンサー部に続くという、少し前のMotoGPマシンでよく使われたレイアウトを採用しています。
ユニークなカカト式ブレーキペダル
フロントフォークは、ロイアルエンフィールド製を装着。フロントブレーキには純正のドラムブレーキ用マウントを加工して、カワサキZ1000用ブレーキディスクにウイルウッド製のキャリパーを2つセットします。
リヤのスイングアームもアルミ製のオリジナルで、リヤブレーキには同じくウイルウッド製のシングルキャリパーを装着。ブレーキペダルは普通のバイクが右側にあるのに対し、このバイクは左側に装着、しかもつま先ではなくカカトで踏み込むユニークな仕様になっています。
ブレーキペダルが左にあるのは、トランスミッションに古いインデアン製を装着している関係上。それがエンジン右側に装着されるため、シフトペダルもおのずと右側にする必要があったわけです。細部も含め、いろいろと個性的なバイクですね。
そして、やはりワンオフのカウリングやシートカウル、燃料タンクなどは全てアルミ製。美しい鏡面仕上げにより、ストリートでのお目立ち度もかなり高いと言えるでしょう。
しかも、このバイク車両重量はたったの170kgとかなり軽量。前述の通り、最高出力50psとパワーはさほどありませんが、1200ccVツインエンジンの強大なトルクと車体の軽さにより、キビキビとした軽快な走りを実現します。
古い名エンジンを活かしつつ、最新のスポーツモデル的なフォルムや、ピカピカした鏡面仕上げなどでインパクトも合わせ持つこのバイク。その存在感はかなり高い1台だといえるでしょう。