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2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

みなさん押しがけって知ってますか?バイクをセルやキックを使わずに始動しちゃう、かつてはよく見かけたテクニックのひとつなんです。もっとも自分の体力頼みなところもあるので、何回かやるとゼェゼェと息が上がってしまうこともままありますが……。

 

それにしても最近はめっきり押しがけしている姿を見なくなりました。単に製品としての品質が上がっただけかもしれませんが、一体なぜなんでしょう?今回は押しがけの方法と一緒にやらなくなった理由を探っていきます。

 

押しがけとは?

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

まずはエンジンの始動について考えてみましょう。ざっくりいうと、安定した稼働の呼び水ともいうべき回転をクランク軸に与えてやることが必要となります。その回転を作りだすのが、バイクの場合はキックペダルであったり電動モーターであったりするわけですね。

 

ですが、構造的にクランク軸を回してやることができる手段はもうひとつあって、車輪の回転をエンジンに伝えてやれば良いのです。車両を(主に人力で)押すことにより車輪を転がし、ある程度勢いがついたところでクラッチを繋ぐという手順でのエンジン始動、これが文字通りの押しがけです

 

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?ここで「クラッチ」に目を止めた方、鋭いですね。いくつかの例外を除けば基本的にMT車でしかできません。

スクーターなどのCVT+自動遠心クラッチや、(バイクにはあまり例がないと思われますが)ロックアップされていない状態のトルクコンバータATでは、車輪側からエンジンに回転を伝えることができないのです。

上記の例外として、AMTやDCT(※)の車両があるのですが、メーカー・車両毎に設定が違っており一概には言えないため、ここでは「基本的にできない / 困難」として詳細には触れないこととします。

※AMTやDCT:AMT(オートクラッチ・マニュアル・トランスミッション)、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)いずれもクラッチ操作が自動かつ不要のマニュアルトランスミッション

 

なぜ今はしなくなったのか

上の項にてMTのバイクでしかできないとは書きましたが、他にも押しがけできない / できなくなった、今現在ならではの要因があります。カンタンにいえば、電子制御が進んだためです。

 

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

アジアンバイクではまだまだキャブレターの採用率が高い。

現行のほとんどのバイクは高性能の追求と環境性能の向上要求から、シンプルが故にアバウトなところもあるキャブレターから、コンピューターで様々なシチュエーションに応じてきめ細かく高度な制御のできるインジェクション(燃料噴射式)での燃料供給に変わっています。

キャブレターでは空気の流れで燃料を吸い出しながらエンジンに送り込んでいたところを、電磁ポンプで加圧した燃料を小さな穴から霧状に噴射させているのです。

そのため電磁ポンプが働かないほどにバッテリーが弱っている場合には燃料が供給されず、どれだけ押そうがエンジンがかかることはありません

 

くわえて最近の大から小まで電子仕掛けで制御されたバイクでは、ある程度バッテリーが弱ると誤作動を防ぐためにECU(エンジン制御コンピュータ)への電源供給がカットされたり、セルモーターでの規定の回転数に達しない限りは燃料噴射や点火を行わない制御をされていることもあり、この場合も同様にどれだけ押そうがエンジンが始動することはありません。

 

さらに近年ではSS等の走りに振ったモデルでは、バックトルクリミッター(スリッパークラッチ)(※)を装備していることもあり、後輪からの逆入力を上手くエンジンに伝えてくれず、押しがけは困難となる場合もあるようです。

※バックトルクリミッター(スリッパークラッチ):強烈にエンジンブレーキ(=車輪側からの逆入力)がかかった際に、後輪が跳ねて暴れるのを抑えるためにクラッチを滑らせる機構で、スリッパークラッチはその滑らせるための主要部分

 

これらの理由で最近のバイクでは、無難に十把一絡げに「基本的に押しがけはできない」というイメージがついてしまったのでしょう。

 

本当にできない?

前項では「基本的に押しがけはできない」と書きましたが・・・・・・

出先でメインスイッチをオフにし忘れて休憩していた等で、「キュ・キュュ・・・ンググ」といった感じでセルは一瞬回るがエンジン始動にまで至らない程度のバッテリー消耗であれば、ECUの設定次第ではインジェクションのバイクでも押しがけで始動できることもありますので、いざというときに試すだけ試してみる価値はあります。

 

ちなみに筆者がこれまでに所有したインジェクション車(FZ-1フェザー、YZF-R1「4C8 / 1KB」、四輪の何台か)や、身の回りで見た例(DUCATIモンスター800ie)は、いずれも極度にバッテリー消耗していないかぎりは普通に押しがけはできていました。

 

自分のバイクがどうなのか、あらかじめ確認しておくにはどうすればよいでしょうか?

販売店等で聞いておくのが確実といえば確実ですが・・・・・・とりあえず押しがけしてみることによって、ECU設定で可能性が閉じられているかどうかまでは判別できます

 

押しがけを実践してみよう

バイクを押してクラッチをつなぐ……といえばそれだけですが、いくつか注意事項があるのも事実。具体的に押しがけをしてみるにあたって必要なことを見ていきましょう。

 

車両の考察

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

基本的に次に当てはまるほどに押しがけは困難となります。

  • 車重が重いほど
  • 排気量が大きいほど
  • 気筒数が少ないほど
  • 圧縮比が高いほど
  • メカニカルフリクション(4st>2st)が多いほど
  • ハンドルで押しにくい(低すぎる、高すぎる)ほど
  • 整備状態が悪いほど(バッテリーやプラグの状態、チェーンのフリクション、タイヤ空気圧等)

なお、始動に失敗した場合に立ちゴケにならないためには、バランス感覚や足つき性も重要な要素となります。

 

場所の選定

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

場所の選定は重要で、歩行者も含めたまわりの交通に影響を与えない / 気を遣わずに済む、平坦で荒れておらず砂浮き等のない路面がベストです。

慣れてきてからの応用として傾斜を利用して楽をすることもできますが、最終的にエンジン始動ができなかった場合に、バイクを押して登らなければならなくなる場所は避けましょう。

 

押し出し

車重や排気量その他にもよりますが、車両の重さと各部のフリクションもあいまって、通常の引き回し程度の勢いではエンジンを回すことはできません。

初めての場合、いきなり始動は狙わずに自分がどのくらいそのバイクを押せるか試してみましょう。

通常は車両左側から押しますが、利き手・利き足で右側のほうが具合が良ければそれでもOKですので、そのあたりを把握してください。

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

サンダル履きでチャレンジという人はいないと思いますが(笑)、バイクの重さ次第で靴の選定も重要となってきます。

忠実なる労働力が確保できる場合、自分はあらかじめ跨ってクラッチミートに専念し、押すのは一任するというのも一つの手段です。

 

手順

2000年以前のテクニック。押しがけってナニ?

では実践してみましょう。手順は次の通りです。

  1. キャブ車の場合は温間・冷間のいずれかでのチョーク使用の判断。
  2. キーをオン位置にしてクラッチを握り、ギアはひとまず2ndに入れます。
  3. バイクを押して、ある程度勢いがついたところでシートに飛び乗ります。
  4. シートに体重を預けて後輪に最も荷重のかかったタイミングでクラッチを繋ぎます。
  5. 初爆がきたらクラッチを切り、アクセル操作と半クラッチを併用しながら回転を安定させて始動完了。
  6. レース等を除いた一般ライダーはNに入れていったん停車し、暖機しながらしばらく様子見しましょう。

ギアはまず2ndで試してみて、状況やバイクの特性次第で1stや3rdでリトライしてみましょう。

 

1stでは強烈なエンジンブレーキと同様ですので、いきなりやってみないほうがよいです。

  • 1st:路面状態が良いor圧縮抵抗の少ないバイク、押す距離が稼げない場合、始動後そのままスタートする必要がある場合
  • 3rd:路面状態が悪いor圧縮抵抗の多いバイクでクラッチミート時に後輪がスリップしてしまう場合

 

シートに乗る際ですが、完全に跨るのと横座りする方法があります。

  • 完全に跨る:足つきに余裕があるならば、こちらの方がより確実に荷重をかけることができます。
  • 横座り:足つきに余裕が無いながら、バランス感覚に自信があればこちらが安全です。(あとレース等で一度で始動できない場合への素早いリトライ対応)

 

クラッチの繋ぎ方は、通常の発進時のようなじわっとではなく、後輪に一番荷重のかかったポイントを狙って「ドン」と繋ぎましょう。押す・飛び乗るは体力勝負ですが、冷間で初爆~安定までもっていくには慣れと経験が必要かもしれません。

 

トラブル対応の引き出しとして覚えておくべし

いかがでしたでしょうか? 筆者自身も最近ほとんどすることのなくなった押しがけについて、思い出せる / 思いつく範囲で書いてみました。

トラブル対応の引き出しのひとつとして、この先使うことはないとしても、覚えておいて損はないですよ。

 

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