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新型コロナウィルスの影響がまだまだ続く中、個人事業主や小規模事業者などが事業転換をおこなうケースが増えているが、中古車を扱うバイク屋にもその傾向が見られるようになり、よく知る都内の某バイクショップも今年に入って中古車の輸入販売も手掛けることになった。
バイクショップとは言っても元来バイク便を生業としながら、古物商の免許を取得して中古バイクの販売や自転車の修理もする小さなお店だった。以前顧客からの依頼でバイクをアメリカから輸入したことが何度かあり、今年から中古バイクの輸入・販売を始めることにした。とはいえ、まずは2台から。
バイク輸入は現地バイヤーとの信頼関係が重要
一口に”バイク輸入”と言っても結構大変で、まずは確かな車体の確保と買い取り価格の交渉、そして日本へ輸出する業者の選定と経費の交渉などなど問題は多い。多くの日本のバイクショップはアメリカ側にいるバイヤーに依頼して買い取り、輸出手続きをするのが定石だが、日本に入った後に内燃機や駆動系、サスペンションに問題があったなんてよくあるトラブルだ。
本来は日本から販売者自身が直接買い付けに行くのが最良なのだが、コスト高やコロナ感染のリスクによってなかなか難しい。そのため、アメリカ側にいる現地バイヤーの優秀さで大きく変わってくる。日本からの要望をどれだけ汲み取ってくれるか、どこまで信頼関係が築けるかが重要なポイントとなる。
その点ではこの店は頼もしい友人をアメリカに持っていた。新旧問わずクルマやバイクに精通しており、なおかつ日本を含め全世界への輸出を長く手掛けている正規輸出ライセンスを持った運送会社を経営しているバイヤーだ。彼らの頼もしいのは、ウェブサイトなどで見つけた購入候補のバイクをオーナーと直接折衝し、価格交渉から要修理部分の洗い出し、最良な輸送方法の選定・手配まで代行してくれるという。もちろん費用内訳もすべて提示してくれるとのことだった。実はこのバイヤーもバイクの買い付けを目的に数年に一度は来日しており、お互い協力しあっている仲だから信用できるのだろう。
信頼できるルートからの購入が理想
中古バイクの輸入、特に旧車の輸入は大きく二つに分けられる。一つ目は、非常に年式の古いバイクだからこそ修理や部品交換などが必要になることを前提に比較的安く仕入れ、時間と労力をかけて走れる状態にまで仕上げる方法。もう一つは、車両コンティションが良く修理の必要がほとんどないバイクを仕入れる方法だが、この場合は当然買い付け価格が割高になる。
このお店が今回輸入したのは後者で、アメリカで数あるオークション会社のなかでも最大級のバイクオークション会場で落札したもの。ちなみにこのオークション会社はバイクだけでなく、どちらかというと高級自動車オークションのほうが有名で、クルマの場合は落札価格が数億円にのぼるほどのプレミアムカーがごろごろ出品されるほど。そのため、今年1月下旬にラスベガスで同社が開催した本年最初のバイク専門オークション(今年は3回開催予定)には1,750台が出品され、計5日間に渡って競売されたが全出品車の約90%が落札された。ちなみ落札価格のトップ10はすべて1,000万円オーバーで、トップは約3,000万円、10位でさえ約2,000万円だった。
このオークション会社はかなり厳しいルールを持っており、出品者は出品バイクの正確な情報を事前に公表しなければならず、もしも車体や、エンジン、年式、状態、書類などを含めて不備や虚偽が発覚した場合は、出品が取り消されるだけでなく大きな罰則を科せられる。そのため全米でも非常に信用度の高いオークションとして世界中から支持されている。
なお今回、1月開催のオークションで落札した車両が日本に入ってくるまでに4ヶ月もかかってしまったのは、このオークション会社が、落札した2台のバイクのうち1台の書類をどうやら紛失(彼らは紛失したとは言ってないが)したようで、あわてて出品者に登録書類の再発行を手配するという大失態があったため…。
今回輸入したのはヤマハ「RD350」(’75)と「RD400」(’76)の2台
紆余曲折あったが、何とか生まれ故郷である日本に再び帰国した日本生まれのアメリカ育ちは、1975年式ヤマハ「RD350」と1976年式ヤマハ「RD400」の2台。350は最終型で400は初年度モデルという偶然の2台。
特にこの2台を狙っていたわけでなく予算内で落札できたのがこの2台だっただけらしいが、どちらも国内、海外を含め販売台数の非常に少ないかなりレアもの。状態は外観ピカピカで再塗装でなくオリジナルカラーのまま。色あせやサビもまったくと言っていいほど無く、改造も一切していないフルストックの状態だ。
なんとRD350には純正のリヤキャリアまで付いている。どちらも室内保管(いわゆる納屋ストックのミントコンディション)のオリジナル状態と説明にも記入されている。
しかも、走行距離はRD350が2,572マイル(約4,115km)、RD400が3,898マイル(約6,236km)と、新古車のような低走行車!
オークション出品時の説明にも”オリジナル距離”となっていたが、さすがに心配で駆動系やブレーキ回りをはじめ各パーツを細かくチェックしてみたが、どうやら本当に実走行距離のようだ。この距離だとエンジンそのものはやっと慣らしが終わるくらいだろうとも。そういえばこの時代の2ストロークモデルはレーシングエンジン並みで、プラグも頻繁にカブっていたため新車時は慣らし運転が数千km必要とも言われていたのを思い出す。まあアメリカでは走行距離に関してはほとんど問題にしないのでわざわざメーターを改ざんすることなんてほぼありえないだろう。
エンジンをかければ異常の有無がわかるので輸入早々キック始動。驚いたのは新車と疑うかのような始動性の良さと2スト独特の唸り声。温まるまでの煙モクモクと大きめの排気音。そうか、忘れていたが70年代のバイクはノーマルでもこれだけの排気音だったのか。今のバイクとは比較できないほどしびれる音!暴走族の直管マフラーのような下品な音ではなく、まさに魂を揺さぶるエキゾーストノートという感じ。
ヘタった2ストマシンにありがちなピストンリングが減ったようなメカノイズもなく、アクセルを開くたび確実に反応する回転数は高回転まで開けるのが怖いほど。ちなみにRD400の出品者コメントには「サイクルマガジンで、『軽い取り回しで速く、ベストハンドリングで高性能ブレーキを備えた軽い車体の6速バイク』と評されたバイクです」とあったのが納得できそうだ。
どうやら投資目的で所有していたバイク好きのアメリカ人オーナーだったらしいが、定期的にエンジンを始動していたみたいですこぶる状態が良い。マフラー内部のサイレンサーもきちんと付いており、2ストマシン特有のマフラー周りのオイル汚れも一切ない。おそらくこの先、この2台が購入され、乗られるようになっていったら、2ストの勲章ともいえる”宿命”が少しづつ付いていくのだろう。それもまたこのバイクらしい。
そういえば今では珍しい分離給油方式なので、燃焼オイルを補充するのも2ストのお約束。どうやらオイルはメーカー純正が一番良いらしいが、ヤマハ純正はまだまだご健在なので安心。
車体周りを見て気づいたが、当然のことながらタイヤは現代のものに交換されており山はたっぷり残っている。それとバックミラーは左側にしか装着されていない。言わずもがな、アメリカは右側通行なので納得だが右側のミラー取り付け部にはきちんとキャップが付いている。このキャップ自体とても懐かしいし、やはり日本のメーカーは細かい部分にも抜かりないと感じさせてくれる。確かに日本でも70年代や80年代のバイクは新車購入時に右側しかミラーが付いていないモデルもあった。車検も当時はそれでOKだった。
もちろん今回の2台を販売する時には両ミラーとも装着され、予備検査もつけて販売されるらしい。ということは新規登録になるので3年車検付きで、日本全国どこでも車体を陸運事務所に持ち込むことなく自賠責保険の加入とナンバーだけ発行してもらえば乗れることになるということだ。
さらに、RD400に限っては、なんと新品の当時のサービスマニュアルまで用意されていた。もちろん日本語版のヤマハ純正品でこちらは店主が探して3月に入手したらしい。
ヤマハ・RD350(1975)
モデル名 | RD350 |
---|---|
エンジン型式 | 空冷2ストローク並列2気筒 |
排気量 | 347cc |
最高出力 | 39PS / 7,500rpm |
最大トルク | 3.8kgf・m / 7,000rpm |
車両重量 | 155kg |
全長×全幅×全高(mm) | 2,040×835×1,110 |
ホイールベース(mm) | 1320 |
シート高(mm) | 800 |
変速機 | 6速リターン |
燃料タンク容量 | 16L |
タイヤサイズ | 前:3.00-18、後:3.50-18 |
ヤマハ・RD400(1976)
モデル名 | RD400 |
---|---|
エンジン型式 | 空冷2ストローク並列2気筒 |
排気量 | 398cc |
最高出力 | 40PS / 8,000rpm |
最大トルク | 3.8kgf・m / 7,000rpm |
車両重量 | 153kg |
全長×全幅×全高(mm) | 2,005×770×1,070 |
ホイールベース(mm) | 1315 |
シート高(mm) | 790 |
変速機 | 6速リターン |
燃料タンク容量 | 16.5L |
タイヤサイズ | 前:3.25-18、後:3.50-18 |
この2台の2ストマシンの販売価格はまだ決まっていないらしいが(本記事が公開されるタイミングでは決まっていると思うが)、これだけミントコンディションな状態のバイクはなかなかこの先もお目にかかれないであろうから、それなりに高額になるのではないか。Z1や750RS、CB750 Four(K0)、MachⅢのように300万円オーバーとまではいかないと思うが、100万円台では売られないだろう。安く見積もってもおそらく2~300万円の間かなと勝手に予想している。その額だったら買いたい!というマニアがでてくるかも。いや、もしかしたら投資目的で手が上がることだってあり得る。
70年代のノスタルジックなバイクが好きな方であれば、一度現車確認してみることをオススメする。ただ、時間の勝負かもしれない…。