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日本人国内でベスパの存在を最も知らしめた人物と言えば、俳優 松田優作氏扮する”工藤ちゃん”であろう。ドラマ『探偵物語』の劇中で、工藤ちゃんの愛車として登場した「ベスパPX」は故障の多いポンコツと主人公に罵られ、乱雑に扱われながらもその存在感と魅力を存分にアピールし、未だに語り継がれているほどだ。
今回はベスパというカテゴリーの中でも一風変わったスタイルながら、一部マニアに愛されてやまない「Pシリーズに」ついて語ってみよう。
RALLYの後継車種はエッジの効いた特異なデザインだった
Pシリーズがベスパのラインナップに加わったのは1978年のことである。それまでのフラッグシップモデルであったRALLYから取って代わり、P200E、P150X、P125Xが同時に発売され、ラージボディは一斉にフルモデルチェンジすることとなった。このPラインと呼ばれるボディは、従来の丸みを活かしたラインのベスパとは大きく異なり、全体的にかなりエッジの効いたデザインとなった。また、安全基準をクリアするため前後左右にウインカーが装備されるようになったのもPシリーズからである。電装もそれまでの6Vから12Vに変更され、大型化されたヘッドライトやテールライトもかなり実用性の高いものとなった。
分離給油+セルスターター化で実用性の高いモデルへと変貌
80年代に入るとマイナーチェンジが施され、PXシリーズへと移行することとなる。デザイン自体にはそれほどの変化はなかったものの、それまでベスパの特徴の一つであった混合給油(ガソリンを給油する度に一定量のオイルを入れなければならない)ではなくなり、自動混合の分離給油が主流(しばらくはどちらも混在していた)となった。さらに84年からはセルスターターも付けられ、キックスタートすらも省ける様になった。ハンドシフトこそ受け継がれたものの、それ意外の部位は現代のスクーターと比べても、何ら遜色のない便利な仕様となったのだ。
FLになりディスクブレーキ装備で更に扱いやすく進化
1998年、FLになってからはディスクブレーキも装備され、制動の点でもより安心できるスクーターへと変貌を遂げた。これまでのフロントブレーキが頼れないベスパとは完全に一線を画す存在となったのだ。2000年にはFL2が登場。外観にはそれほどの変化はないものの、ノーズの部分のデザインが変更され、微妙に丸みを帯びたデザインに変わった。また、ノーズ部のエンブレムも6角形の物から長方形の旧型タイプに変更になり、スピードメーターもレトロ風なデザインに変更されるなど、主に外観の変更ばかりではあるが、全体的にレトロなイメージに変更したという印象となった。
EU圏内統一排出ガス規制で2ストがダメになったが…
結局、EU圏内統一排出ガス規制により、2ストエンジンのPシリーズは生産中止を余儀なくされたものの、2011年、VESPA販売65周年記念モデルとしてユーロ3対応のPXシリーズが125と150のラインナップで復活した。外観にはほとんど変化なく、シートとマフラーの形状のみが異なる。そういったマイナーチェンジ具合においても、それまでのPシリーズの流れを組んでいると言えよう。世界的にも貴重な存在となった2ストベスパを新車で購入できる機会はこれが最後になるであろう。
2ストベスパを新車で買える最後のチャンスだ!
全体的に角張ったスタイルはあまり日本人には好まれなかったようで、国内ではベスピーノ(スモールボディ)の方が圧倒的に人気を博していたが、本国イタリアでは絶大な人気を誇っていたというPシリーズ。あの工藤ちゃんの愛車としてTV画面の向こうで大活躍していたPシリーズ。ラージボディの熟成した型であり、旧車と比べる遥かに扱い易いPシリーズ。そして何より、未だに新車で買える可能性があるPシリーズ。今後、2ストの新車など登場しないことを考えれば、興味のある方は復刻版のユーロ3対応タイプなどを購入してみるのも手ではないだろうか。ベスパシリーズの中でもオススメの一台である。