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現在の走りを重視したモデルでは、セパレートハンドルが純正装着であたりまえになっており、若い世代にはそれほど特別なものとしては目に映らないかもしれませんが、マグラやトマゼリと聞くとピクッと反応してしまう世代の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
DIYでのプチカスタムというには少々敷居が高くなってしまいますので、今回の記事では主にメリット・デメリットと装着時の注意点などに触れてみたいと思います。
セパハンとは?
日本では一般的にセパハンと呼ばれているセパレートハンドル。
一本の棒(パイプ)を曲げることにより、左右一体で作られるバーハンドルに対して、左右のフォークそれぞれに分けて(セパレート)取り付けられることからそう呼ばれていますが、英語圏では「クリップオンハンドル(Clip on Handles)」と呼称される場合のほうが多いようです。
和製英語として定着してしまったバックステップ(Rear set Peg)と同様でしょうか?
なお、日本においてセパハンの装着は80年代中頃までは違法とされていました。違法であるからには危険視されていたのだろうと思いますが、未舗装路も多かった時代に制定された法の名残でしょうか?
とはいえ、未舗装路や不整路といった直接の危険に繋がらずとも、法は法として問答無用で目の敵のように厳しく取り締まりを受けていたという話は多いようです。
その後外国メーカー絡みの外圧なのか国産メーカーから働きかけなのか解禁されて、1986年にレーシングマシンと同様に純正でブリッジ下セパハンを装着したNSR250Rが発売されて今に至ります。
絞り・垂れ
セパハンを語る上で重要になってくるキーワードが、絞りと垂れ。
絞りは車体上方から見た場合のハンドル先端のすぼまり具合、垂れは車体前方から見た場合のハンドル先端の垂れ具合となります。
ともにセパハンで上体を低く構えようとする場合には手首が自然な角度になるように角度を強める場合が多いです。
本来いかに乗り易くするかといった設定ではありますが、一部で「角度がキツいほどカッコイイ!」と、いった価値観の人たちも存在します。
セパハンによるメリット
トップブリッジやフォークの高さに影響されず、低いポジションをとることが可能となるセパレートハンドルですが、どういったメリットがあるでしょうか?ひとつひとつズームインしてみていきましょう。
実用上
1960年代くらいまでのレーサーの設計思想は、いかにトップスピードを稼ぐかというものでした。(コーナリングはできる範囲でやりすごすといったイメージ)
トップスピードを稼ぐ上で、またトップスピードに到達する過程で、ライダーがバイクと一体となるようなライポジを取りやすく、空気抵抗を減少するために考案されたのがセパレートハンドルです。
そのため古いモデルではひたすら低く・遠くといったポジションのものが多かったのですが、現代のレーサーやSSモデルではメーカー毎のコーナリング思想とサスペンションセッティング等とも絡めて、ブレーキング / コーナリング時の前輪荷重をかけやすくといったところまでも考えられており、コンパクトなフォームを取りながらも動き易い、(体格が合ってさえいれば)余裕のあるポジションがとれるものが主流になっています。
デザイン上
そういうモデルはそういう傾向があるための刷りこみかもしれませんが、やはり低くコンパクトに構えたスタイルはスポーティに引き締まって見えます。
アップライトに構えるバーハンドルが合気道の構えのような自然体だとすると、ボクシングのピーカブースタイルや短距離のクラウチングスタートのようなアグレッシブなイメージとなります。
中には大型のツアラーモデル等で、低く構える必要はなくともセパレートハンドルを採用している場合もありますが、これらはフォークに直接クリップオンすることによる剛性と軽量化や、トップブリッジ上にパイプを通さないといった実用上やデザイン上の理由が考えられます。
セパハンによるデメリット
逆にセパレートハンドルを装着することによって生じるデメリットを挙げてみましょう。
実用上
体格に応じて調整し、セパレートハンドルにおける適切なライディングポジションを取れていたにしても、同じ人が同じクラスのアップライトなライポジを取れるバイクに同じ距離を乗った場合と比べると、疲労度が増すのは疑いようのない事実です。
ただしそれらは前傾による上目遣いの連続であったり、基本的に上体を体幹(主に背筋)で支え続けることによるものであり、「腰が」「首が」「肩が」「手首が」という場合は、(背を反らして顎を上げ腕を突っ張っているような)姿勢が悪いか体格に合っていないことを自ら語っているようなものではあります。
ちなみに、低いハンドルで適正な姿勢を取るためには、ステップ位置による膝の位置や角度も重要となり、低いハンドル導入時には併せての調整式ステップの装着やポジション調整が重要となります。
その他アップライトなポジションよりも視点が低くなるため、意識的に見廻さない限りは街乗り等での視界は悪化してしまうため、上で書いた「悪いフォーム」にならざるを得ない場合もあります。
その他
セパハン装着車はハンドル位置が低くなることによりタンクとの干渉を避けるため、同クラスのバーハンドル車と比較するとハンドル切れ角が少なくなっている場合が多いです。
そのため低速や降車しての押し引きでの取り回しでは、同クラスのバーハンドル車よりも不利となる場合が多いです。
その他低速でコケそうになった場合に、低いハンドルはテコの原理が働きにくいため、同クラスのバーハンドル車のように力技で支えきれずにあっさり転ばせてしまったり、いったん転ばすと起こしにくかったりといったことはあります。
取付にあたっての注意点
純正でセパレートハンドル装着している車種の場合は対策してありますが、バーハンドル車をセパレートハンドルに換装する場合や、純正セパハンをより低く(高く)したいといった場合の注意点として以下が発生します。
- 多くのセパレートハンドルでトップブリッジの取り外しが必要となり、そのぶん工賃が嵩むこととなります。(フォークの固定を緩めるだけに、DIYでアライメントを適正に組み直すには相応の知識と技術が必要)
- ブレーキ・クラッチのライン / ワイヤー および配線の長さの最適化が必要。(最適化を怠った場合はクラッチやブレーキの動作不全やライン / ワイヤーの痛みの加速が生じたり、余った長さが昆虫の触覚のようになってカッコ悪くなったりします)
- タンクとのクリアランスを考えて、あらかじめよく把握して調整しておかないと、タンクとハンドルに指を挟まれたり、タンクを凹ませたりといったことになります。
- 純正よりも大幅に絞りや垂れを増した場合、純正のブレーキ(クラッチ)マスター一体の箱型リザーブタンクでは斜めの取付でエア噛みしてしまうため、リザーブタンク別体式のマスターへの交換が必要になる場合があります。
タンクとのクリアランスを稼ぐための一般的な手法は次のとおりです。
- 高さ・絞り・垂れを設定する上での理想のポジションとのせめぎ合い
- バーエンドのカット
- ハンドルストッパーの肉盛り
- タンクの接触部を造形的にできるだけカッコよくあらかじめ凹ませておく
その他
セパハンは基本的にライポジを低く構えるために装着するものですが、それに絡んでのオマケ紹介です。
フルアジャスタブル
純正品や一般的な市販のセパハンでは、より低い方向へや絞りの調整は簡単なのですが、ライダー各自の好みやカスタムの方向性の変化への対応、また一時的な用途に応じてやや高めへの方向も含めて最適なポジションを探れるこういった商品もあります。
実際に装着している人にはまだ出会ったことがありませんが、ちょっとロンツーに出るといった場合にはワイヤーの余裕の範囲で高目にとか、純正セパハンをもう少し高くしながらタンクとの干渉を避けて理想ポジを探るといった運用方法もできそうですね。
逆付け
「セパハン」ではありませんが、低く構えたスタイルを手軽に実現したり、ちょっと試してみるといった場合には、バーハンドルの逆付けといった手段もあります。
純正バーハンに多い絞り角の少ないコンチネンタルハンドルを逆付けしてもとりあえず低くはなるのですが……
手首の角度がイマイチになったり、何よりもセットバック長がつきすぎて(ハンドル取付位置が後ろ過ぎて)セパハン的ではなくあまりカッコ良くないので(笑)、一般的には「コンドル」や「スワロー」といわれるタイプのものを使って、同時にセットバックを調整するのが一般的です。
純正だと上体が起き過ぎたり、肘を張りすぎた不自然なライポジで運転せざるを得ないといった、身長180cm超の大きい人にも有効な手法です。
まとめ
あと付け加えるなら、ハンドル換装で幅そのものを狭めたり絞り角を強めた場合等でバイクの全幅が変わると(純正から±2cm以上)、車検証の記載変更が必要になる場合があります。
そのあたりにも留意しつつ、「カッコ」もいいですが理想のライポジを追及してみましょう!