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神奈川を舞台とした伝説のヤンキー漫画「特攻の拓」。
主人公でいじめられっ子の拓ちゃんが高校でヤンキーデビューし、喧嘩ではなく”バイクのテクニックと優しさ”で上り詰め、暴走族の全面戦争を収めるまでを収録した傑作漫画です。
そして登場人物の中でも最強の一人と謳われている天羽 時貞(あもう ときさだ)a.k.a.”龍神 from 獏羅天” a.k.a.”セロニアス”が所有するバイクこそ、SR乗りを震撼させた「ルシファーズハンマー(悪魔の鉄槌)」です。
日本の暴走族では見かけることのないSRをベースに、ハーレー用のピストンと”伝説の6速”ミッションが組み込まれた”天羽スペシャル”。
当時の読者はこのSRに強く憧れていましたね。忠実に再現したレプリカモデルを制作した人もいました。
しかし、それは外装だけの話であって、重要なエンジン部のカスタムは空想のお話。某質問サイトやコミニュティサイトでは今だに問いかけられている「ハーレー用のピストンと伝説の6速ミッション仕様にカスタムできるのか」…。
その真相を解明すべく、日本を飛び出し海外からも高い評価を受け、数々の偉業を成し遂げてきたスカルモーターサイクルの凄腕ビルダー梶谷氏に聞いてみました。
梶谷耕治氏プロフィール: 広島県三原市のカスタムバイクショップ「スカルモーターサイクル」代表。SRはもちろん、国産アメリカンやハーレーなど様々な車種をベースに数々のカスタムバイクショーで独創的なマシンを発表してきた。その高いオリジナリティと技術力による作品は、常にカスタムシーンを賑わせている。
ルシファーズハンマーの再現に必要なポイント
その前にざっくりとルシファーズハンマーのカスタム箇所をご紹介。
- マグラセパハン
- ノートンマンクスアルミタンク
- デロルトキャブレター
- ヨシムラマフラー
- シングルシート
- オーリンズサスペンション
- 幻の6速ミッション
- ハーレー用ピストン
- etc…
ざっとこんな感じです。幻の6速ミッションとハーレー用ピストンの2点を除けば今でも手に入るパーツばかりなので、すぐにでも揃えることができます。と言うより、外見はほとんどカフェレーサー仕様ですので。
現実味のない6速ミッションはさて置き、ルシファーズハンマーの由来ともいえるハーレー用ピストンですが…詳しくは過去に「マンガ「特攻の拓」に登場する「ルシファーズ・ハンマー」には元ネタがあった!?」でルシファーズハンマーについて説明しているのでここでは割愛します。ぜひ目を通してみて下さい。
https://forride.jp/news/lucifers-hammer
実現可能かプロビルダーに聞いてみた
そんなわけで梶谷さんに突撃取材を慣行しました。もちろんこんな状況下なので、直接お話を聞くのではなく、電話越しになってしまったのが残念でしたが……。以下、Q&A形式でお送りします!
Q:物理的にルシファーズハンマーは制作可能ですか?
A:エンジン部を除くレプリカ仕様ならすぐにでも制作可能です。クオリティーもあの当時より、良いものになると思いますよ。
Q:実際ルシファーズハンマー仕様にしたら乗り味はどうなりますか?
A:単純にSRにルシファーズハンマーを組んだら、ノーマルより遅いけどスルスル走ると思います。
そのままだと面白くないので、吸気、排気、カム、クランク等々をそのピストンの特性に合わせて、調整すればかなり化けていくと思います。
Q:作中ではハーレー用のピストンを使用していますが組み込みは可能?
A:おそらくドラッグレースにエントリーするために設計されたピストンだと思いますが、実際に組み込むことは可能です。しかし、SRのピストンと比べるとサイズが異なるので、シリンダーのスリーブ打ち変えと、ピストンピンのブッシュ加工を施す必要があります。
Q:幻の6速ミッションも実現可能?
A:アンユニットのクランクケースを作れば難なく可能です。ただオイルポンプの加工が非常に難しいですね。
この点がクリアできればオープンベルトとハーレーの6速ミッションを合わせてしまえばできますね。実際に弊社(スカルMC)でもSRに6速ミッションを搭載した経験がありますので。
Q:作中ではGPZ900R(Ninja)とゼロヨンで互角だったようですが……?
A:私が作ったエンジンが後輪計測で48.5馬力で、走らせてみるとギアチェンジの度に2ストロークマシンのようにウィリーしながら最高速度230キロ出ました。車重が軽い分、100キロまでの加速が半端じゃないので、スタートでどれだけ差をつけられるか次第で可能性はあると思いますが、GPZ900Rの後半の伸びも恐ろしいので、”ゼロ200″であれば確実に勝てるでしょうね!
さて、もう答えは出たも同然ですが、結論づけたいと思います。
結論:作れるけどそれなりの費用と腕が必要
エンジン部まで忠実に弄り倒したルシファーズハンマーは物理的に作れるが、それなりの費用と確かな腕のあるビルダーじゃないと製作不可能。そもそも本物のルシファーズハンマー用のピストンがなかなか手に入らないですからね……。
見た目だけのレプリカなら、工具の取り扱いに慣れている方であれば意外と簡単にカスタム可能です。今はボルトオンで取り付けできるカスタムパーツが増えているので、実践してみてはいかがでしょうか!
【おまけ】SRで出来る予想外カスタム
余談ですが、SRを使ってどこまで特殊なカスタムができるのかを聞いてみたので、カスタムの参考にどうぞ!
Q:SRに乾式クラッチは装着できる?
A:先の通り、クランクケースをアンユニットで作れば乾式になりますね。別の方法だと、実際に台湾の方がスポーツスターのプライマリーカバーを加工して乾式にしてましたね。ということでいろんな方法で可能です。
Q:SRにセルってつけられるの?
A:クランクケースを作ってしまえばハーレーのミッションを使用することで実装できますし、電じ弁(デコンプ)も市販されてるので、理論上は可能です。SRVのクランクケースを加工して一から製作した猛者もいるみたいですね。
Q:SRエンジンを2つつけてVツインまたはダブルエンジンは可能?
A:ダブルエンジンは作ったことがあるのですが、シフトミスですぐ壊れるのでダメですね。前と後ろのギアが常に同じギアに入ってないと、ギア比が変わってどちらかのミッションが壊れます。Vツインならアンユニットにしてしまえば1個のミッションで対応できるので作れると思います。
Q:SRのカスタムで現存する最大排気量っていくつ?
A:700cc超えのエンジンを製作した人がいたと思いますが、私は90φを組み込んだ534ccがベストだと思いますね。またはストロークを伸ばしてトライアンフの様にテコテコ走るエンジンも面白そうです。ちなみにSRのエンジンを起こして組む(さらに直立させる)ともっとドコドコ感がでて、乗り味がもっと面白くなるんですよ!
Q:シリンダー180度回転(後方排気)は可能?
A:可能です。6速ミッションと同様にこれも実際に製作したことがあります。ポート加工とバルブシートの加工、カムの製作で問題なく出来ますが、カムの角度等は詳細が出回っていないので、試作の繰り返しで完成までは大変です。
Q:多気筒化できる?
A:可能だと思います。アメリカやヨーロッパでクランクケースとコンロッドから作っている変態…もとい猛者もいますね。
Q:ハイパーチャージャー搭載もOK?
A:ハイパーチャージャーでもターボでも可能ですが、問題はどこまでローコンプにして、何気圧までかけるのかで強度が変わってきます。インジェクション化は必須で、どのプログラムを使ってセッティングを出していくかが難しいとこですね。私ならダイナの点火とテクノリサーチのコンピューターの組み合わせで試したいですが対応するかは分かりません。
キャブレター車でも出来るのですが、キャブレターからエンジンまでの距離が長すぎてエンジンのかかりが非常に悪くなるし、かかってもアクセルオフの時にフロート室に厚がかかり、オーバーフローすると思います。
Q:バックギア搭載できちゃう?
A:セルモーターが取り付けられたらニュートラルでセルを逆回転させればバックします。
純正ケースでは狭すぎるため少し無理がありますが、キック部分とクラッチカバー内部の加工で可能といえば可能です。
スピードの向こう側を見にいこう(安全運転で)
かなり特殊なカスタムばかりですが、そのほとんどがスカルモーターサイクルなら製作可能とのこと。
SRのオーナーはもちろんのこと、これからSRを手に入れて”人とは違った”カスタムをしたい!なんて人は、凄腕ビルダー梶谷氏のいるスカルモーターサイクルに相談してみてはいかがでしょうか。
ルシファーズハンマーを超えるバイクで”スピードの向こう側”に行けるかもしれませんよ?
くれぐれも不運(ハードラック)と踊(ダンス)っちまわないように安全運転を!(セリフを言いたかっただけ)