スクーターに乗っていると、よく目に入ってくるデリバリーの3輪バイク。安定感もあるし、屋根がついているから、急に雨が降り出した日ともなれば羨望の眼差しで見てしまうときもあります。とはいえ、横殴りの雨の時は、あんまり屋根が役に立たないんですけどね……。
「いっそ全面を覆う外装をつけちゃえば、天気なんか気にせず気軽に乗れるのに」なんてスクーター乗りなら一度は考えてしまうアイディアですが、きちんと形にした超小型モビリティが、およそ70年前にはすでに存在していたって知ってました?
超小型モビリティのご先祖様「バブルカー」
それが第二次世界大戦後~1950年代にかけて欧州で流行した、超小型自動車「バブルカー」です。モノがない時代につくられたため、ほぼ車輪を増やした外装付きのスクーターといったほうが近いくらいで、とにかく普通のクルマでは考えられないくらいミニマルな構成でした。
車輪はだいたい3つだけ、ドアに至ってはほとんどが1枚のみで、フロントから乗車するなんていう面白いレイアウトのモデルまで存在しました。大きさもせいぜいスクーター2台分程度というコンパクトさで、まさに超小型モビリティのご先祖様といえます。
キャノピーを開けると運転席がこんにちわ
中でも代表的なモデルのひとつがドイツの航空機メーカー、メッサーシュミット社が製造していた「KR200」です。コンセプトは「全天候対応のキャビン付きスクーター」で、見ての通り細長い車体の全面を外装が覆っています。
パッと見ドアがないのでどこから乗るのかわかりずらいですが、戦闘機のようなアクリル製キャノピーこそが乗車口。こちらをパカッと上に跳ね上げると、運転席と後部座席が乗り手を迎えてくれます。シートの配置が前後方向のタンデムとなっているところはなんだかバイク的ですね。
エンジンは後部座席の真後ろに配置。ギアは4速で後輪を駆動させる形でしたが、おもしろいことにバックギアはありません。じゃあ後退するときはどうするのかというと、エンジンを逆回転させていました。そのままシフトアップすれば加速すら可能だったというから、豪快にもほどがあります。乗りこなせばかなりアクロバティックな挙動が可能だったことでしょう。
今こそ乗りたいキャビン付きスクーター
コンパクトとはいえ、航空機メーカーのつくった車両ということもあり、流線形のボディや当時最先端だったプレス加工による部品の数々は今見ても美しさすら感じます。当然、現代の安全基準からすればかなり心もとない設計とはいえ、おおらかな時代だったからこそ許されるデザインや車体構成には魅力が詰まっています。小さな丸目ライトもあざといカワいさですし、キャノピーを開けているところなんて「ハーイ!」って帽子を掲げて挨拶しているみたい(ヘー◯ルハウス的な)。
こんなキャビン付きスクーターならどこへ行っても通行人の笑顔に出会えそうです。デリバリーに使えば、メッサーシュミット目当てのお客さんが急増しちゃうかも?