高級SUVの中でも別格の人気を誇るメルセデス・ベンツ「Gクラス」。ベースとなった軍用車から受け継いだ、あのザ・無骨といっても過言ではないボディと走破性を感じさせる高い車高が特徴的で、一度見たら忘れられない存在感を放っています。
ところが、ルイ・ヴィトンのアートディレクターにしてオフホワイトの創設者ヴァージル・アブローとメルセデスのアート・コラボレーション「Project Geländewagen」によるカスタム車両はまったく異なります。ベースこそ確かにGですが低く構えたワイドボディの、まさにレースカーへと変貌を遂げているのです。
ファッショナブルなストリートレーサー然と化した”G”
見てください、この張り出したフェンダーのたくましさ。サイドステップ含め、Gクラス最強と呼ばれた4×4スクエアードのオーバーフェンダーが目じゃないくらいの厚みです。フロントバンパーからリアバンパーまで一体成型にも見える形状のスポーティさといったらGTカー顔負け。
ローダウンのおかげでかなりタイヤとフェンダーの隙間が押さえぎみなものの、それでもハンドリングに支障が出ない程度には確保されています。つるんとしたレーシングタイヤも相まって、ここだけ見ているとまるでホットハッチのようです。迫力こそ違いますが、角張っていながらもなめらかさが増したボディとストリートレーサー然とした雰囲気も相まって、2000年代に数多く見られた日産キューブのカスタムマシンを想起してしまうのは筆者だけでしょうか。
それでもGクラスらしさもきちんと残されています。特徴的なグリルやヘッドライトはもちろん、リアハッチのスペアタイヤを見れば一目瞭然です。
ちなみに、下地塗装のようなカラーからなんとなくまだ製作途中のようにも見えますが、実はこれ石膏の色合いを表現したもの。一度美しいホワイトに全体を塗った後、職人が手作業でヤスリがけして塗装に変化をつけ、素材感を演出しているんです。アート作品ならではのこだわりですね。
インテリアはさらにレースカーらしい仕上がり。フロアマットやドアパネルは取り除かれ、軽量化が図られています。あえて残されたダッシュボードとセンターコンソールには、アナログゲージとトグルスイッチを配置。その白一色で整えられたシンプルな空間の中に、F1マシンのような横長でコンパクトなステアリングと、5点式ハーネスを備えたスポーツシートが設置されています。
さらにボディ剛性をアップさせるロールケージに、いざというときに必要となる消火器といったレーサーに欠かせない装備も抜かりありません。
レプリカがチャリティーオークションに出品予定
1972年以来、オフロードビークルの代表格としての名をほしいままにしてきたGクラスの新たな境地をひらく今回の試み。こちらのオリジナルは残念なことに購入不可とのことですが、レプリカは世界最古のオークションとして知られるRMサザビーズに出品予定となっています。しかも、落札代金はすべて国際的なクリエイティブコミュニティをサポートする団体に寄付されるということもまた、ヴァージルやメルセデスがデザインの未来を真剣に考えていることの表れでしょう。
意欲的な”オフホワイト”のゲレンデワーゲンレーサー。ラグジュアリーブランドのこれからを切り開く存在となる……かも?