【平成の名車を振り返る】コレはあり得ない!ホンダGPレーサーの血を引く2台の市販車!

【平成の名車を振り返る】ならば……確かに「ゼファー」は偉かったし、「マジェスティ」は新たなムーブメントを生み出しました。そしてスズキの油冷は独創的なチャレンジでした。

 

しかし……ホンダが平成に市販した2台のモーターサイクルは、浮世離れしていたのは事実ではありますが、それでもやはり、触れずには居られないのであります。それが……「NR」と「RC213V-S」でございます。両車ともに”あり得ない”市販車として後世に語り継がれるに違いない、平成に生れた名車です。

 

市販車世界初の楕円ピストンエンジンを搭載した「NR」

最初にご紹介するのは「NR」。市販車として世界初の楕円ピストンエンジンを搭載して、炭素繊維強化樹脂(CFRP)やチタン、マグネシウムなどの先進的な軽量素材と、ホンダの最先端技術を結集した、次世代ロードスポーツバイクです。

 

市販が開始されたのは1992年5月のことでした。「NR」の注目ポイントは(今更ながらですが)楕円ピストンエンジン。それその物よりも、市販に至った背景が凄いなと筆者は感じています。

 

事の始まりは1979年。ホンダが12年ぶりに世界グランプリの最高峰である500ccクラスに復帰を果たした時に始まります。そのレーシングマシン「NR500」は4サイクルV型4気筒のDOHCエンジンを搭載していたのですが、気筒当たり8本のバルブと2本のコンロッドを持つ、長円形ピストンエンジンだったのです。

 

その背景には、当時の世界GPには2ストローク、4ストロークを問わず4気筒までというレギュレーションがありました。ホンダが大好きな4ストロークで対抗するには、吸気効率を向上させること、高速回転に耐えられる動弁系を作り上げることが必要でした。こうしてバルブの数を倍の8バルブに増やすというアイデアが生まれ、レイアウトするために、ピストンが長円形になっていったのであります。

 

この前代未聞の長円形ピストンエンジンの開発は困難を極めたそうです。当時の開発者のお話では、コンロッドのねじれと、ピストンリングの破断にあったそうです。

 

1979年、Mick Grant選手が駆る「NR500」。デビュー戦となった第11戦イギリスGP決勝レースでは、ミック・グラントが1周目の第1コーナーで転倒、リタイア。片山敬済もわずか数周でエンジントラブルのためリタイア……惨敗に終わりました。

 

その後も開発は続けられ、1983年の3Xでは130馬力を1万9500回転で発揮。馬力の上ではライバルたちに比肩するまでになっていたものの、結局最後までGP500では勝てなかったのであります。

 

こうした背景を持った長円形ピストンエンジンの、いわば卒業制作として市販に移されたのが「NR」なのです。発表当時のリリースを転載しておきます。

エンジンは、楕円ピストン採用の新開発水冷・4ストローク・DOHC・V型4気筒で1気筒あ たり吸気と排気バルブを各4本計8バルブを配し、さらにチタンコンロッドと点火プラグを各2本装備している。同時に、新開発の多連式8ボアスロットルボディ式のコンピュータ制御燃料噴 射装置(PGM-FI)を採用し、楕円ピストン・エンジンならではの高回転領域まで幅広く適切な燃料供給を可能とし、PGMイグニションによる最適点火時期制御とあいまって、回転数や負荷状況に応じ素早い応答性と力強い燃焼力を発揮し、爽快なエンジン回転上昇フィーリングを実現している。

飽きる程メーカーのプレスリリースを読み込んできた筆者ですが、ここまで独創的な技術を連発している車両は知りません。筆者が何か書くより余程興味深いと思いますので、当時のリリースをもう少し転載します。

 

この楕円ピストン・エンジンの特徴は、従来の丸型ピストンに比べショートストローク化と摺動抵抗の低減による高回転化と、多バルブ化(4→8本)による吸・排気効率の飛躍的な向上が可能となり、この結果、低速域から高速域までワイドでフラットなトルク特性を発揮させ、幅広い回転域で力強く俊敏な応答性を実現できる画期的な技術である。排気系は、シートカウル内部にマフラーを配置し、リアデザインをすっきりとしたエアロダイナミックなフォルムにしている。

富樫ヨーコさんは「NR」だけで本出しちゃうくらい凄いエンジンだったのです。

 

車体回りも(エンジンほどではありませんが)凄まじい作りです。フレームはホンダ独自の目の字型断面材を使用した極太アルミ・ツインチューブ。ヘッドパイプ廻りやピボット部にはアルミ鍛造素材を採用して、フレームのねじれ・たわみを均一化。しなやかな操縦性と優れた直進性を高次元でバランスさせています。フェアリングとボディカウルには、軽量・ 高剛性の炭素繊維強化樹脂(CFRP)を採用。ウインドスクリーンには多層蒸着法によるチタン / シリコン・ ハードコートを施しています。

 

フロントには倒立フォーク、リアには片持ち式スイングアーム(プロアーム)を採用。軽量・高品質のマグネシウム・ホイールを装備。フロントブレーキは異径4ポケット対向ピストン・ キャリパーと大径(310mm)フローティング・ディスクをダブルで、リアにはデュアルピス トン・キャリパーにベンチレーテッド・ディスクブレーキを組み合わせて装備。

 

何から何まで、時代を超越していたモーターサイクル。それが「NR」でした……ちなみに車両本体価格は520万円でしたが、当時ホンダの方にうかがったところ「これはバーゲンプライス。全く商売にならないと思います。そもそも値段のつけ方が分からない……そんなモーターサイクルなんです」と言われました。

 

ホンダ「NR」1992年モデルのスペック

  • 全長×全幅×全高:2,085×890×1,090mm
  • ホイールベース:1,435mm
  • シート高:780mm
  • 車両重量:244kg(乾燥223kg)
  • エンジン種類 / 弁方式:水冷4ストロークV型4気筒 / DOHC32バルブ
  • 総排気量:747cc
  • 内径×行程:101.2(長径)×50.6(短径)×42.0(行程)mm
  • 圧縮比:11.7
  • 最高出力:77 ps / 11,500rpm
  • 最大トルク:5.4 kg・m / 9,000rpm

 

「RC213V-S」は公道を走れるMotoGPレーサー!

そしてもう1台のあり得ないホンダ車がコチラ! 2013年・2014年のFIMロードレース世界選手権(以降 MotoGP)のMotoGPクラスにおいて2連覇を達成した競技専用マシン「RC213V」の一部仕様を変更し、一般公道での走行を可能とした「RC213V-S」でございます。

 

正直な感想としては、本モデルは「NR」を越えています。ホンダのリリースを読めば分かります。

今回の「RC213V-S」は、これまでのHondaがレース参戦で得た技術の市販車への還元ではなく、MotoGPに参戦するために開発したマシンを一般公道で走行させるという新たな試みです。

(中略)

「RC213V-S」では、RC213Vの徹底したマス集中化とフリクション低減や、MotoGPマシンとして量産車と圧倒的な差を生んでいる製造上の“構成部品の軽量化と加工精度”“製作時の高い技能”を全て踏襲し、併せてRC213Vに採用されている制御技術も搭載しました。また、RC213Vではライダーやコースごとの仕様変更を前提に、勝利に必要とされる部品のみで構成されています。「RC213V-S」では、一般公道仕様としてRC213Vから必要最低限の変更と追加を行いました。

 

極端な話ではなく「RC213」を公道仕様に変更したのが「RC213V-S」。これまでの「レーサーのテクノロジーを投入した……」というモデルとは次元が違うのであります。これまた、こんなリリースを読んだのは初めてなのですけど……RC213Vからの主な変更・追加点として挙げられたのは以下のみです。

[メンテナンス性からの変更項目]

  • カムギアトレインを踏襲しながらも、ニュウマチックバルブを、コイルスプリング式に変更。
  • シームレストランスミッションをコンベンショナル方式に変更。

上記変更点は、オープンカテゴリー用市販レーシングマシンRCV1000Rと同仕様。

[一般公道走行のための追加項目]

  • ヘッドライト
  • テールランプ
  • ライセンスランプ
  • 前・後ウインカーランプ
  • 左・右バックミラー
  • スピードメーター
  • 触媒付きマフラー
  • ライセンスプレートホルダー
  • ホーン
  • Hondaスマート・キー
  • セルスターター
  • サイドスタンド など

[一般公道走行のための変更項目]

  • ハンドル切れ角:15度 → 26度
  • タイヤ:ブリヂストン社製RS10
  • フロントブレーキディスク:ユタカ技研社製(ステンレス材)
  • ブレーキパッド:ブレンボ社製

ということは、このV型4気筒エンジンのほとんどの部品や……

 

フレームやスイングアーム、サスペンションや何やらはMotoGPレーサー「RC213」と同じなのであります……レーサーと市販車に厳然たる壁が立ちはだかる平成の末期に、こんな市販車が登場しようとは……絶句するしかありません。

筆者は実車が公道を走っているところを拝んだことはありませんが、とあるバイク販売店さんの方が登録に来ていた「RC213V-S」を目撃したとの情報がありますから、確かに日本にも居るのでしょうね。

ちなみに車両本体価格(消費税込み)は2,190万円でした……

 

ホンダ「RC213V-S」(日本仕様)のスペック

  • 全長×全幅×全高:2,100×790×1,120mm
  • ホイールベース:1,465mm
  • シート高:830mm
  • 車両重量:乾燥170kg
  • エンジン種類 / 弁方式:水冷4ストロークV型4気筒 / DOHC16バルブ
  • 総排気量:999cc
  • 内径×行程:81.0×48.4mm
  • 圧縮比:13.0
  • 最高出力:70 ps / 6,00rpm
  • 最大トルク:8.8 kgf・m / 9,000rpm

 

夢を売るのもメーカーの仕事。やっぱりホンダは凄かった!

目ざとい方ならば、日本仕様「RC213V-S」の最高出力が恐ろしく低いことに気付くことでしょう。コレ、日本の騒音規制に対応すると、仕方ないことなんですね。欧州仕様は159psですから……

それでも「NR」と「RC213V-S」は夢を与えてくれたと思います。やっぱり平成の時代もホンダは凄かった……月並みですけど、そう感じた筆者なのです。

 

参考-ホンダ