日本屈指のバイクメーカー、ホンダ。そのロゴであるウイングマークを象徴するかのように、アジアでの躍進は著しいです。ベトナムをはじめとして「ホンダ」がバイクそのものを示すほど親しまれている国もあるほど。そうした場所に負けず劣らず、インドもまた熱い支持を集めている地域だって知ってました?
筆者は現在、南インドはゴア州にある海沿いの小さな村に滞在しています。ビーチにココナッツ、朝夕には漁師が小舟で魚を採りにいくような長閑な村です。しかし、ある夕方、散歩していた筆者はそこかしこに停められているバイクを見ながら、ある1つの奇妙な共通点に気が付きました。
「さっきからACTIVAとDIOしか見ないな」
どちらもホンダ製の原付であるこの二台。ACTIVAはインド市場における主力モデル、そしてDIOは日本でもいわずと知れた、定番の車種です。
まさかな、と思いながらその後も歩き続けます。よくよく注意しながら見ていくと、停めてある原付はなんとACTIVAが7割、DIOは2割。なんと筆者調べでこの村の約9割の原付がホンダ製であることがわかりました。
ウイングマークの羽ばたきは、南インドの小さな漁村にまで届いていたんですね……
世界一のバイク大国「インド」
そもそもインドにおいてバイクは欠かせない生活の足で、なんと国内の保有台数は1億5500万台と世界一。さらに販売台数、生産台数も世界一と、最高にホットな市場なんです。
インドでバイク需要が高い理由の筆頭として、都市部の道路の混雑具合が上げられます。一日を通して人が溢れているような状況ということもあり、すり抜けができないクルマでの移動は非常に不便なのです。
そして近年起きているのが、「スクータライゼーション」と呼ばれるほどのスクーター需要の急騰です。従来はギアの付いた、いわゆるバイクが一般的だったのですが、2015年あたりからインドでは都市部のみならず農村まで道路の整備が進み、スクーターで走行可能な道が増加。子供や女性のスクーター乗車率向上も拍車をかけ、販売台数がグンと伸びています。
それにしても、なぜここまでホンダの原付に人気が集中しているのでしょうか?
ホンダの原付はインド一ィィ!
実は原付市場に限っていえば、ホンダは現地のトップメーカー「ヒーロー・モトコープ」を押さえて全体の5割を超えるシェアを獲得しているほど。急加速するスクーター需要の供給競争を勝ち抜いた勝因は、日本で培った技術をインドでの生産に活かし、現地の需要に素早く応えたためといえるでしょう。
それに加えて、ヒーローとホンダは技術提携を行っていた間柄だったため、インドにおける知名度はもともと高め。日本屈指のバイクメーカーというネームバリューも絶大な効果を発揮しています。
インドの価値観に沿った「ACTIVA」と交通事情に合った「DIO」
インドでこれだけホンダが受け入れられた理由は、バイクそのものにもあります。その際たるものが、主力モデルのACTIVA125。このスクーター最大の特長は、ボディが金属でできているという点です。
通常原付のボディはプラスチックや樹脂製であることが基本ですが、車重を重くしてでも「金属は最終的に資産になる」というインド人の価値観に寄せて価値を訴求しているんです。
にもかかわらず販売価格は日本円にして約6万6千円と100cc以上としてはインド国内でも破格で、初めてバイクを買う若年層、そして小規模なバイクディーラーのどちらにも優しい価格設定で販売台数を伸ばしました。
そしてDIO人気の理由、それはズバリ燃費の良さです。110ccにも関わらず66km/Lという驚愕の低燃費で、移動頻度が高く走行距離も長いインド人の心をグッと掴んでいます。新車販売価格は日本円で約10万円、上位モデル扱いで日本にいる時よりも出世していますね。
ですが、こちらはプラスチックボディ。使い捨て感覚なのか、筆者の滞在先近くのバイクショップ周りをはじめとして、DIOが地球に帰ろうとしているのをよく見かけます。
そして最後にぜひ見ていただきたいのがこちらの写真です。筆者が何気なく撮ったこの写真ですが、手前に写っているのはDIO1台、そして続く6台は全てACTIVAです。そしてなんと左奥に見える3台もそれぞれDIOとACTIVA。これはホンダのショールームではなく、南インドの小さな村の集会所の駐車場を偶然捉えただけでこれですからね。
先述したとおりインドの国内バイク所有台数は1億5500万台です。しかしこれはインドの総人口からすると約10分の1。まだ9割も普及する余地が残されているわけです。経済成長著しいインドではさらにバイク需要は高まっていくことでしょう。
「The Power of Dreams」ホンダは世界に羽ばたいています。これまでも、これからも。